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Tim Russert の伝説

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June 15, 2009 20:26 jst
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Tim Russertの突然の死去から一年が経った。

Remembering Tim Russert
【Politico: June 14, 2009】

Tim Russertは、NBCの日曜の看板報道番組であった“Meet the Press”でアンカーを務めていた。しかし、どうやら彼の空席を埋めるのは至難の業だ、というのが、この一年を振り返っての印象のようだ。

つまり、Tim Russertは、American Journalismの世界ではlegendary figureとしての存在になった、ということ。

一年後のテレビ報道番組の個々の評価については、上のPoliticoの記事を参照して欲しい。

日曜の報道番組は、テレビジャーナリズムの激戦地で、NBC、CBS、ABC、Fox、の、地上波ネットワークに加えて、CNN、MSNBC、Fox Newsなどのケーブルニュースチャンネルが加わっている。Foxが明確に保守=GOP支持に傾斜した報道をしているため、実際には、いわゆる「三大ネットワーク」の三つの番組、つまり、“Meet the Press”(NBC)、“Face the Nation”(CBS)、“This Week”(ABC)、が直接的には、Tim Russertの空席を埋めるべく競っていることになる。

ここから先は、個人的な視聴印象になるが、いずれの番組もアンカーの影響が大きい。Bob Schieffer “Face the Nation”は事実探究型の淡々とした番組構成、George Stephanopoulos の“This Week”は逆にStephanopoulosのフランクリーな口調に合わせて放談的な構成という印象がある。Tim Russertの後を継いだDavid Gregoryは、どちらかというとStephanopoulos的だが、何にせよ、Tim Russertが果たしたような、「切り口の厳しさ」は感じられない。

では、Tim Russertの核には何があったのか。

上のPoliticoの記事の中で引用されている、Bloomberg NewsのAl Huntのコメントがそれを典型的に言い当てている。Huntによれば、Russertは「Knowledge(知識)、intelligence(知性)、toughness(強靱さ)、fairness(公正さ)、を兼ね備えていて、他の人がまねしようとしても無理」。

つまり、Tim Russertは余人に代え難い(irreplaceable)な人物であり、だからこそ、もはや伝説だ、という認識が定着してしまったようだ。

現実問題として、Tim Russertが退場した後のアメリカのジャーナリズムは、ジャーナリズムの枠組みや土台そのものが大きく揺らいでいる。新聞がなくなる、とか、テレビニュースは党派制のドライブがどんどんかかる、とか、ケーブルやウェブのように四六時中アクセス可能な媒体が遍在化してそもそもアジェンダ・セッティングを逐一していく余裕がない、とか。

そういう状況をふまえれば、Tim Russertの衣鉢を継ぐ人物は、テレビではないところから生まれることになるととるのが妥当なのだろう。

そして、その人物を見いだしたときに、Tim Russertはテレビジャーナリズムの伝説として完成することになる。と同時に、ジャーナリズムの一つの時代が明確に終わることになる。

今まで何度か触れてきたように、オバマのホワイトハウスは、コミュニケーションに関しては試合巧者だ。そうした取材される側のロジックにどのように対応するかも、次のTim Russertが生まれる上での鍵となるのだろう。

とはいえ、Tim Russertだったらこんな時どう突っ込んだか、というのは、しばらくの間、アメリカのジャーナリズムの現場に憑いて回る、一つの呪縛であり続けるに違いない。

*

追記

MSNBCがTim Russertを追悼している(たとえばここ)。
見ればわかるように、Tim Russertは、とてもチャーミングな人物。
アメリカの普通の街の普通の家で育って、スポーツ観戦が楽しみで、ダイナーでビールとハンバーガーを迷わずオーダーしてしまうような雰囲気。書き物でいったらBob Greenみたいな感じ。
それでも、ここぞと言うときは、インタビュー相手に切り込んだり、今後の動勢について確信をもったときは、それを決然と語ることも厭わない、ガッツある人物。
本当に、惜しい人を早くになくしてしまった。