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連日、GMが破産法適用か、という報道が続いている。
デトロイトはどう変わればいいのか、先日コメントしたように、WIREDがアイデアを示している。
Beyond Detroit: On the Road to Recovery, Let the Little Guys Drive
【Wired: May 22, 2009】
ポイントは、Big3は、20世紀初頭から続いている「トップダウン型で垂直統合型の企業体」から、「イノベーションの永続的な促進者(プロモーター)」を目指すべきだ、ということ。そして、産業全体として、「デトロイトが全て掌握し判断する」構造から、「イノベーションの生態系(Ecosystem of innovation)」を支える構造へと変化(Tranfrom)すべきだ、ということ。そして、そうしたEcosystemを築くためには、モジュール化された産業構造体系が必要だという。
議論の随所で、アメリカで過去10年間、「イノベーションの経済学」を先導してきたアカデミシャンとその学説が登場する。
●“Open Innovaton”のHenry Chesbrough (UC Berkley)
●“Disruptive Innovation”のClayton Cristensen (Harvard)
●“Modularity”のKim Clark, Carlis Boldwin (Harvard, MIT)
という具合。彼らの登場から大方予想はつくと思うが、
●基本的に、コンピュータ産業のように、産業構造の随所で同時多発的に「イノベーション」が生じるような構造にしないといけない。アメリカの自動車産業は長らくイノベーションが起こらない産業になっていた。イノベーションは日本や欧州のメーカーが進めてきた。
(記事中では、MITのCusumano教授(この人もプロセス・イノベーションの分野などの大家の一人)のコメントとして、過去20年間ほどのあいだ、MITの学生は、第一希望としては自動車業界を挙げないという発言が引用されていた。それくらい、創造性からは縁遠い業界と認識されていることの現れととらえていいのだろう。)
●コンピュータ産業の変貌(汎用大型コンピュータからPCやワークステーションへの移行)は、当事者(IBMやDECなど)には厳しいものだったが、その後、多数の企業と創造的な研究開発が進んだ。一方、テレビ受像器メーカー(RCAやZenith)は市場の変化に対応できず、基本的に北米からテレビメーカーは消えてしまった(もちろん、これは昔日本、今韓国の家電メーカーの攻勢のため)。
●だから、Big3は今、瀬戸際にあるわけだが、逆に瀬戸際まで追い詰められているがゆえに新たなチャンスを他国のメーカーに先駆けてつかむことができるはず。それは、Christensenが教えるとおり、「成功者は成功者であるが故に、定義上、自分たちの成功モデルを破壊するようなイノベーション(disruptive innovation)を採用することから目をそむけてしまう」から。
●Modularityを推奨することで、ハードの製造をあたかもソフトウェアの製造のように、自律的に進化可能な構造をくみこむことができるはず。
(確か、インドのタタの自動車が、modularityをベースにした製造プロセスのはず。)
以上のように、基本的には、コンピュータ業界のようになりましょう、ということで、そのためのロジックも主にコンピュータ業界(や製薬業界)を中心にイノベーションのあり方を研究してきた学者から引いている。だから、基本的にシリコンバレーモデル。だから、とてもWIRED的。
記事中でも、映画のTuckerなどを引きながら、結局寡占三社が新規参入を阻んできたがために、Big3では新陳代謝が起こらなくなったと指摘している。一方、カリフォルニアでは、自動車のみならず飛行機などでも、自前で新たな商品モデルを作って新規参入しようという起業化的な試みをしばしば見かける。だから、ある意味、WIREDはカリフォルニアの願望を投影して上のような記事を書いたと言える。
ただ気になるのは、コンピュータ業界がどこまでベンチマーク先として妥当かとういうところ。個人的には、今回、Big3の中でアメリカ政府の救済を直接は求めなかったFordが気になっている。FordのCEOであるAlan Mulally氏はBoeingの出身だから。飛行機は部品数の多さでは自動車の比ではなく、それゆえ全ての工程を内製化できないので、外部との協力関係で必要だった、というのを聞いたことがあるから。そして、Mullay 氏自身、エンジニアの出身で、そうしたプロセス改革の細部にまで目を通すことが可能な人物だと聞いたことがあるから。WIREDの記事で推薦されたような構造も、Mulally氏なら先導することができるかもしれない。
もっとも、しばしば指摘されるように、デトロイトの問題は、技術や開発力だけではなく、労使関係や年金など人間にまつわる部分も多く、根は深い。そして、こうしたヒューマンファクターについては、外国自動車メーカーを誘致した南部諸州では、また異なったルールの下で行われている。簡単にいえば、人にかかるコストの制度的基盤が、全米で一律ではない、というのが、この問題を複雑にする。社会や国への影響は大きいけれども、極論するとミシガンのローカルルールが問題なんでしょ、という反論も可能だから。
その意味で、とても、アメリカ的な問題。
だから、アメリカ的な解決策もあるかもしれないけれども。