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公共ラジオ、寄付者に訴えられる

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Public Radio Listeners Want Their Money Back
【January 9, 2006: New York Times】

公共ラジオが番組を予定通りに流さなかったため、寄付者が寄付金を返せと集団訴訟を起こした、という話。

*****

デトロイトの公共ラジオ局が、当初予定したいた音楽番組をキャンセルし、シンジケーション(番組販売)市場から調達した番組を流したら、それは約束が違う、ということで、寄付者が寄付金を返せ、ということになった。

アメリカには、NHKやBBCのような政府が予算管理をする公共放送はない。公共ラジオといわれるものは、NPO、非営利団体となる。

アメリカの非営利法人は、一般的に、寄付金と、自らの営業利益で経営する。非営利法人だから、税金は免除、その代わり、一般の法人以上に厳しいディスクロージャーが義務付けられている。また、寄付金については、寄付者も税控除を受けることができる。要するに、政府を経由せずに、政府がやってもいいようなことを、自分たちでやるというもの。さらに、大手の非営利法人だと、免税債を発行して市場から資金を調達することもできる。NBAやNHLなどのスポーツ団体や、MOMAなどの美術館などは、そうして経営を行い、その経営トップは大企業の経営トップと遜色ない報酬を得ている(こうした報酬もディスクロージャー対象。もっとも、一般法人でも、取締役は報酬を公開する義務がある)。

もっとも、アメリカでいう公共放送というのは、こうした巨大非営利法人には属さない。ラジオではないけど、NYのThirteenというPBS局では、番組の合間に常に寄付を募っていた。かように、スポーツや美術館と異なり、決して儲かるものではないようだ。とはいえ、NYの出版社でも見られるように、高給よりも「よいコンテント」を作りたい、という人間が集まってまわしている。例えば、杉原千畝のドキュメンタリが、ボストンのPBS局(ここはPBSの中でも制作力があることで有名)で製作されていたりした(もっとも、その寄付は、杉原に恩義を感じるユダヤ人コミュニティが寄付をしたという話もある)。

で、件のラジオ局も、予定していた番組を切り替えてしまったから、それは寄付の使途と異なる、ということで、訴えられてしまった。一般に寄付は使途を特定することができるので、その義務を破棄したということで、ラジオ局のTrustee(一般法人だと取締役に相当)を、breach of fiduciary duty(日本語だと、善管注意義務を怠った)という理由で、訴訟沙汰になってしまった、ということ。

公共という言葉の含意や、やNPO(非営利団体)の、米日の差異を知るにはよいケースだと思う。

はたして、NHK改革の際には、こういう話も検討されるのか。受信料未納の罰則規定が厳しいBBCだけを参考にしていると、民営化や規模縮小、といった話はなかなか現実的なものにはならないでしょう。何といっても、BBCは女王の特許状で成立しているし、国内では商業活動は禁止されているものの、海外ではどんどん稼いで来い、というのがBBCの成功の真髄だから。かつての島ゲジ構想を袖にした日本だと、いまさら、七つの海を制覇した大英帝国の末裔には及ばないことは間違いないだろうから。