ジミー・キンメルとドナルド・トランプの確執が、再び放送局のライセンス停止、という問題に飛び火した。FCCが、2026年4月28日、三大ネットワークの一つであるABCが所有するすべての放送局のライセンスの見直しを図ると発表したからだ。
直接の理由は、キンメルが、先週木曜に、彼のABCでの番組「ジミー・キンメル・ライブ!」の中で、(その時点で次の土曜に開催予定の)ホワイトハウス・コレスポンデンス・ディナーの司会をキンメルが務めたら、という想定で、ファーストレディのメラニア・トランプに向けて「未亡人となるのを待つ未亡人」のような輝きがあると紹介した場面があったからだった。
念のため、確認しておくと、これはあくまでもコメディアンであるキンメルが、コメディショー番組の中でコメディの一幕として演じたものだ。
その演目の内容に対して、メラニア・トランプがソーシャルメディア上で不快感を表明し、その後、トランプ自身も同じくソーシャルメディア上で怒りを表明し、ABCはキンメルを解雇すべきだと主張した。
FCCによるABCのライセンス見直しの動きは、この一連の騒動の後に起こった。
キンメルについては、以前にもトランプとの間で似たような騒動があり、その時はキンメルが一時降板させられたものの、多方面からの非難によって、そして裁判所の判断によって、その後降板が取り消された。この時もFCCのブレンダン・カー委員長が、トランプの憤懣に応える形でABCのライセンスの見直しを盾に、ABCならびにその親会社であるディズニーに圧力をかけていた。
だから、今回は2度目、ということだ。
前回と違うところがあるとすれば、キンメルが触れたコレスポンデンス・ディナーの会場に銃で武装した男性が押し入り、一時会場が騒然としたという事件があったことだ。当然、出席していたトランプ大統領、ヴァンス副大統領、ジョンソン会議長などの政府要人はシークレットサービスの指揮で即座に避難した。結果として死者は一人も出ず大事に至らずに済んだが、一つ間違えばキンメルが皮肉ったようにメラニアが未亡人になる、すなわちトランプが殺害される可能性もあったわけで、トランプの怒りはキンメルの発言が、今回の襲撃のような大統領に対する敵対行為を促しているという認識もあったようだ。
もちろん、キンメルの発言はあくまでもコメディの中の一幕でしかないし、それを理由に彼の言動を封じたり、あるいは彼の番組を放送したABCからライセンスを剥奪したりするのは、憲法修正第一条「言論の自由」を損ねる理由で認められない、というのが一般的に法的な見方だ。ディズニー・ABCもそのような方針で臨むと思われる。
ただ、いうまでもなく、今回の放送ライセンス見直しの件は、もともとトランプの既存マスメディア報道機関嫌いから発したメディア企業への圧力の一環であり、さらにいえば、テレビ局のDEI姿勢の否定を『プロジェクト2025』の中で書いた
カー委員長の意向にも即したものだったから、と思うのが妥当なところ。
したがって、トランプやカーからすれば、制度的圧力をかけ、訴訟になったところで、ディズニー・ABCに示談を選択させ、和解金を受け取るというのを落としどころにしているのでないか、と目されている。
現在、三大ネットワークのうち、CBSは親会社のパラマウントが、トランプの政治献金提供者のひとりであるオラクル創業者ラリー・エリソンの息子デイヴィッド・エリソンの傘下に収まったこともあり、報道姿勢が急速にトランプ寄りになっている。
たとえば、今回のコレスポンデンス・ディナー事件の直後に、CBSの看板報道番組『60ミニッツ』にトランプを出演させ、今回の事件に対するトランプの怒りや見解をいち早くテレビで伝えていた。
ディズニー・ABCに対しても同様の「軟化」を要請しようとしていると見られる。
ただ、ディズニーは、アップルとともに、トランプ2.0が始まって以後、数少ない「進歩的態度」をなんとか維持している企業であり、簡単にはトランプ2.0の思い通りになるとは考えにくい。
コメディショーは、アメリカのメディア環境の中では微妙で扱いに困る番組ジャンルではある。文化戦争がもはや生活空間全域、表現行為全般にまで行き渡っているアメリカでは、いわば政治戦争の最前線でもある。それゆえのトランプ2.0からの熾烈な攻撃対象なのだが、さて、今回はどのような形で決着をつけるのか。
【追記】
状況を明確にするためにいくつか補足しておく。
まず、キンメルの「未亡人」発言は、トランプとメラニアの年齢差を考慮したよくある「トロフィーワイフ」ネタの揶揄であったこと。79歳のトランプと、56歳のメラニアなら、トランプが先に亡くなるのは当然のことだろうという認識から来ている。
このことを確認したうえで指摘したいのは、メラニアとトランプのキンメルに対する不満のソーシャルメディアコメントは、コレスポンデンス・ディナーの事件のあとで投じられたこと。つまり、キンメルについての憤懣は、事件が起こった事後に、訴求的にキンメルのジョークの意味を今回の事件と結びつけて解釈したところで生じたものとなる。その意味で、キンメルからすれば、何を今さら、というところだろう。
それから、この2つの指摘とは少しずれるが、今回の襲撃については、以前あったトランプの暗殺未遂事件や、前回のキンメル降板事件のときとは異なり、MAGAのインフルエンサーの援護射撃的コメントがほとんど聞こえてこないという特徴がある。
これはどうやら、トランプがもう戦争はしないといいながらイランと戦争を始めたことで「アメリカ・ファースト」を奉じるMAGAのオピニオン・リーダーがトランプから距離を置き始めているからのようだ。
以上のように、キンメル発言から生じた事件ではあるがその受け止められ方は前回とはだいぶ異なってきているようだ。