いわゆる「持続可能=サステイナブル」なエネルギー開発で、今後、中国が世界のリーダーになるのではないか、という話。
As US cedes leadership on climate, China steps up
【PBS NewsHour Weekend: February 3, 2019】
21世紀に入ってからの急速な経済発展を通じて大量のCO2を排出してきたため、もっぱら中国は、20世紀後半に欧米を中心に検討されてきた地球温暖化対策に背く国とみなされてきた。工場や発電所の排出ガスによって空が真っ暗になった北京の映像を目にしたことがある人も多いと思う。
ところが、そのような中国が、この先むしろ、グリーンエネルギーの推進者に躍り出るというのが、ここで取り上げられたバーバラ・フィナモア女史の“Will China Save the Planet?”という本の趣旨なのだという。彼女は、NRDC(the Natural Resources Defense Council)という――「自然資源防衛委員会」とでも訳せばよいのだろうか――組織のシニア・ストラテジック・ダイレクターという職務にあるのだという。そこで長らく中国の動向を気にかけてきていた。
彼女によれば、中国が次代のグリーンエネルギーの先導者となる分岐点となったのが2013年で、その年、このまま石炭や石油の化石燃料に頼ったままでいっても経済的な限界にぶつかると判断した中国政府は、サステイナブルエネルギーへの舵取りを真剣に考え、政策プログラムに練り上げた。その後、急速に風力発電や太陽光発電の設置に向かい、必要となる装置や機材についても開発を進めてきている。
政府主導のプログラムであるため、たとえばソーラーパネルのコストも日に日に下がってきているのだという。フィナモア女史が注目するのは、このような点で、当初は中国国内用に製造されていたサステイナブルエネルギー製品も、遠からず輸出に回されたりすると考えられるからだ。単に製品としてだけではなく、それこそ発電所計画全体で、プラントとして輸出されることもありえる。
このニュースが面白いのは、フィナモア女史にインタビューするニュースアンカーの女性が、しかし、それにしてもあの(煤煙のある空でマスクなしに過ごすことも出来ないような印象のある)中国が、クリーンニューディールをむしろ先導するのか?その役目はアメリカだったのではないか?というふうに、素直に疑問を漏らしていたところだ。
これには2つの側面があって、ひとつは、中国が、いわば西洋世界が200年間ほどかけて経験した「開発の行き過ぎによる自滅」の可能性に、どうやら、このわずか20年ほどの間に身にしみて気づいてしまったこと。経済を立ち上げることは重要だけれど、その結果、国土や国民まで破壊されてしまっては元も子もないというところにあるようだ。
そして、もうひとつの背景は、アメリカがトランプ政権になって以後、むしろ石炭バンザイ!の方向に旋回してしまったこと。地球温暖化なんてリベラルがつくったデマ、ということをツイッターを含めて公言してはばからない状態がもう2年あまり続いているからだ。
だが、この2年の間に、両者の立場は逆転した、ということになる。
もちろん、事態がフィナモア女史のいうとおり進むかどうかはわからない。単に彼女の観察結果が中国に好意的なものになっている可能性もある。ただそうだとしても、このニュースは興味深い視点を提供してくれる。
それは、中国という国にとって「民=人口」はとにもかくにも配慮の対象になるものだということだ。多分、狙いはあまり、個々人の与信を電子上の履歴で政府が判断するという例のプログラムと変わらない。多くの民を抱えていること事態が国力につながる、あるいは、多くの民を抱えられない政府は民によるしっぺ返しを受ける、というのを直感的に誰もが理解している社会なのではないか。そんなことを考えさせられる。
ともあれ、アメリカと中国の間の立場の逆転は、それこそ、啓蒙君主か、民に選ばれた大統領か、君主制か民主制か、という問題にも突き当たる。しばらく気になる論点だ。