AmazonがHQ2を二分割する理由

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November 09, 2018 19:11 jst
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junichi ikeda

この1年あまり、折りに触れ話題になっていたAmazonの第2本社(HQ2)設置に向けた誘致合戦であるが、ここに来て、HQ2を2つの都市に配置するという計画が浮上してきた。


Amazon Plans to Split HQ2 Between Long Island City, N.Y., and Arlington, Va.
【November 5, 2018: New York Times】


その2都市体制において噂される2つの候補地のうちの一つが、ニューヨーク市を構成する5つの地区(ボロー)の一つであるクイーンズに属するロングアイランド・シティ。

もう一つが、バージニア州アーリントン郡(カウンティ)に属するクリスタル・シティ。アーリントンといえばアーリントン墓地で有名なようにワシントンDCの近郊に位置する。

要するに、アメリカ随一の商都であり金融の街であるニューヨーク市と、連邦政府の中枢がある政都ワシントンDCに隣接する地域に、AmazonはHQ2を設置するのではないか、というわけだ。

もちろん、これはまだ決定事項ではない。

けれども、Amazonの今後の「政治的運命」を考えると、極めて妥当な選択といえる。

というのも、Amazonは、近い将来、反トラスト法の観点から、その事業形態の見直しを迫られる可能性は極めて高いからだ。おそらく、一度は通らねばならない道になることだろう。

もちろん、いつになるかはわからないが、しかし、このままAmazonが「成長」を続けるならば、「その日」は必ずやってくる。

となると、「その日」に備えて、政治的な味方は多ければ多いほどよい。

そう考えた時、東海岸の人口密集地として連邦議会に多数の議員を送り出しているニューヨーク市の政治力は捨て置けない。もちろん、ウォール街として金融の中心であり、マディソン・スクエアに見られるメディアならびにジャーナリズムの中心であることも大きい。

さらにいえばマンハッタンには国連本部もある。規制という点でいえば、シリコンバレー企業の目下の懸念は、アメリカの反トラスト法当局よりも、EUの規制当局である。その意味で、ニューヨークのもつ外交ネットワークも魅力的なことだろう。

同じような「政治的魅力」は、もちろん、ワシントンDCにも当てはまる。アーリントンの地元に溶け込むことで、その土地に無くてはならない存在になる。

この点で、まさにAmazonの業容拡大路線が逆に効いてくることになる。というのも、Amazonという名の中身は、今までなら潜在的に「およそ商品なら何でも」であった。つまり、世の中に売られている製品なら何でも取り扱う、ということだったわけだが、その「リミットレス」の経営方針は、ITがおよそすべての業界に浸透していくことで、また、すべての人がITガジェット(今ならスマフォ)なしに過ごすことはできなくなったことで、およそ世に中で売買されているものなら何でも提供することになり、そのためにAmazonという存在の中身も「およそ会社なら何でも」ということになったからだ。

つまり、潜在的にAmazonは、どんな事業にも乗り出せ、どんな会社をも傘下におさめることができる。そして、その場合、それぞれの事業部門=(子)会社にとって適した物理的地域が必ず出てくることになる。

となると、その都度、Amazonはその事業分野のHQをふさわしい土地に展開していけばよい。

実のところ、そもそもクラウドコンピューティングの大手なのだから、機能的にはHQの多くをバーチャルに収納することも可能なはずで、だとすれば、なおのこと、ある特定の事業にマッチした地域特性をもつ場所にHQという名の社員が集中的に勤務する場所があればよい。

つまり、HQとは、もはや一種のHive=(蜂の)巣であり、そこにそれこそ「働き蜂」のように社員が、それぞれが蜜に相当する利益のネタを持ち寄ってくるような姿がイメージされる。

とまれ、この物理的拠点に最終的に縛られることを選んでしまっているところが、AmazonがAppleやGoogle、Facebookと異なるところだ。すべての業態をフランチャイズする潜在的能力を持っているところがすごいといえばすごい。

逆に、こうしたAmazonのあり方が、AIの時代の、IoTの時代の具体的内実として、人びとに理解されていくはずであり、その意味で、Amazonとは範型であり、カテゴリーキラーならぬ、カテゴリージェネレイターである。流通の中にとどまり「キラー」として互いにロジスティクスのゼロサムゲームを繰り返すのではなく、新たなカテゴリーをアドオンしていくところがすごい。少なくともそう振る舞うものと期待されている。

その結果、将来的には、ウルトラ・コングロマリットになる可能性が浮上する。

「すべてがAmazonになる」のであり、「すべてのネットはAmazonに通じる」のである。

そんな可能性の塊を、政治家や行政官などパブリックサービスで働く人びとが見逃すはずはないだろう。

その意味で、このAmazonのHQ2イベントは、今後の都市計画の一つのテストケースにもなるはずだ。

とはいえ、この場合、Amazonが老獪なのも確かで、一連のHQ2誘致合戦を通じて、Amazonは全米の主要都市のデータや特性を、当の市の行政官や政治家から、直接ブリーフィングされている。それらのデータや人脈も、今後の、HQ3、HQ4、・・・、の展開の際に役立つことは間違いない。

AI/IoTの時代は、およそ地上に存在する産業のすべてにITが関わっていく。その守備範囲の広さは、企業誘致のあり方やそれと連想した地域開発のあり方も変えていく。

それにしても、無店舗販売のAmazonが、まさかHQという一種の出店計画によって、まるでWalmartのように、ローカル政府と関わるようになるとは思わなかった。誰よりもビジネスにおける土地の持つ意味をよく知っているという点で、Amazonは、きっとAppleやFacebook、Googleとは異なる存在に今後は進化していくに違いない。