『サピエンス全史』で世界的なベストセラー作家の仲間入りをはたしたユヴァル・ノア・ハラリの新刊“21 Lessons for the 21st Century”が発売された。さっそく、ビル・ゲイツがNew York Timesにレビューをあげている。
What Are the Biggest Problems Facing Us in the 21st Century?
【New York Times: September 4, 2018】
“Sapience”、“Homo Deus”ともに激賞していたゲイツだけれど、新作についても基本的には、リーダビリティの高い本として推奨している。
“Sapience”が過去、“Homo Deus”は未来、ときたところで、シリーズ(?)3作目の本作“21 Lessons for the 21st Century”が扱うのは「現在」。
タイトルにあるとおり、「21世紀のための21のレッスン/教訓」ということで、21のホットなトピックについて論じている。
全体は5部構成で、
The Technological Change: 技術のトレンドの評価
Disillusionment, Work, Liberty, Equality
The Political Change: 政治状況の分析
Community, Civilization, Nationalism, Religion, Immigration
Despair and Hope: 不安と希望をもたらすあれこれの社会事象の解説
Terrorism, War, Humility, God, Secularism
Truth: 真理を巡る思索
Ignorance, Justice, Post-Truth, Science Fiction
Resilience: 弾力性(対応策)
Education, Meaning, Meditation
からなっている。
入り口が、ITとバイオテックの融合の話題から入り、最後は瞑想で終わるところは、むしろ、前作の“Homo Deus”の構成を踏襲しているようにも見える。というか、多分“Homo Deus”で示した「未来像」から翻って、今、どうするのか、何をすべきで、何を無視すべきなのか、という話題から成り立っている。
少なくともゲイツはそう読んでいるようだ。
多くの論考は、どうやらすでに寄稿済みのものを改稿したもののようなので、全編、描き下ろしということではないようで、となると、この2年余りの間に、彼が欧米の主要紙/誌で書いてきたことの「まとめ」という感じのものなのだろう。
となると、なんとなく議論の方向も想像がつくのだが、そのあたりは、ちゃんと読んでからにしたい。
それにしても、日本ではようやく『ホモデウス』の翻訳が発売されたタイミングで、英語の新作が出るというのも、なかなか考えさせられる。もちろん、翻訳にかかるタイムラグなのだから、ある意味で当然といえば当然なのだけど、ようやく追いついたと思ったら、また引き離された、という感じがしなくもない。
もっとも、この翻訳に伴う「タイムラグ」は今に始まったことではないから、単に、ウェブ以後の感覚として気付かされてしまうわけだけど。むしろ、インターネット以前の時代は、そんなタイムラグをどう処理していたのか、という方が気になってくる。
そして、まさに、こうした「世界」感覚をもたらした人類文明の「進展ぶり」を言祝ぐところから、ハラリは“21 Lessons for the 21st Century”を始めている。だからこその「21世紀」であり、そのための「グローバル」な状況、世界中で同時多発的に生じている「文明の病」に対して一定の視座から捉えるようにしようと、心がけている。
最近のTEDにおける講演などを見ているとそう感じる。
ともあれ、まずは“21 Lessons for the 21st Century”を手に取るところから始めたい。