ハラリの新刊 “21 Lessons for the 21st Century” 発売

latest update
September 05, 2018
author
junichi ikeda

『サピエンス全史』で世界的なベストセラー作家の仲間入りをはたしたユヴァル・ノア・ハラリの新刊“21 Lessons for the 21st Century”が発売された。さっそく、ビル・ゲイツがNew York Timesにレビューをあげている。

What Are the Biggest Problems Facing Us in the 21st Century?
【New York Times: September 4, 2018】

“Sapience”、“Homo Deus”ともに激賞していたゲイツだけれど、新作についても基本的には、リーダビリティの高い本として推奨している。

“Sapience”が過去、“Homo Deus”は未来、ときたところで、シリーズ(?)3作目の本作“21 Lessons for the 21st Century”が扱うのは「現在」。

タイトルにあるとおり、「21世紀のための21のレッスン/教訓」ということで、21のホットなトピックについて論じている。

全体は5部構成で、

The Technological Change: 技術のトレンドの評価
Disillusionment, Work, Liberty, Equality

The Political Change: 政治状況の分析
Community, Civilization, Nationalism, Religion, Immigration

Despair and Hope: 不安と希望をもたらすあれこれの社会事象の解説
Terrorism, War, Humility, God, Secularism

Truth: 真理を巡る思索
Ignorance, Justice, Post-Truth, Science Fiction

Resilience: 弾力性(対応策)
Education, Meaning, Meditation

からなっている。

入り口が、ITとバイオテックの融合の話題から入り、最後は瞑想で終わるところは、むしろ、前作の“Homo Deus”の構成を踏襲しているようにも見える。というか、多分“Homo Deus”で示した「未来像」から翻って、今、どうするのか、何をすべきで、何を無視すべきなのか、という話題から成り立っている。

少なくともゲイツはそう読んでいるようだ。

多くの論考は、どうやらすでに寄稿済みのものを改稿したもののようなので、全編、描き下ろしということではないようで、となると、この2年余りの間に、彼が欧米の主要紙/誌で書いてきたことの「まとめ」という感じのものなのだろう。

となると、なんとなく議論の方向も想像がつくのだが、そのあたりは、ちゃんと読んでからにしたい。

それにしても、日本ではようやく『ホモデウス』の翻訳が発売されたタイミングで、英語の新作が出るというのも、なかなか考えさせられる。もちろん、翻訳にかかるタイムラグなのだから、ある意味で当然といえば当然なのだけど、ようやく追いついたと思ったら、また引き離された、という感じがしなくもない。

もっとも、この翻訳に伴う「タイムラグ」は今に始まったことではないから、単に、ウェブ以後の感覚として気付かされてしまうわけだけど。むしろ、インターネット以前の時代は、そんなタイムラグをどう処理していたのか、という方が気になってくる。

そして、まさに、こうした「世界」感覚をもたらした人類文明の「進展ぶり」を言祝ぐところから、ハラリは“21 Lessons for the 21st Century”を始めている。だからこその「21世紀」であり、そのための「グローバル」な状況、世界中で同時多発的に生じている「文明の病」に対して一定の視座から捉えるようにしようと、心がけている。

最近のTEDにおける講演などを見ているとそう感じる。

ともあれ、まずは“21 Lessons for the 21st Century”を手に取るところから始めたい。