なるほどだからロシアはブロックチェインに力を入れているのか、と納得させられた記事。
Blockchain Will Be Theirs, Russian Spy Boasted at Conference
【New York Times: April 29, 2018】
話の中心は、昨年、ブロックチェインの技術的標準化のために開催されたISO(International Standard Organization:国際標準化機構)のカンファレンスの席で、ロシアの代表の一人が「インターネットはアメリカのものだが、ブロックチェインはロシアのものになる」という発言があったことで、その人物がロシアの諜報機関であるFSB(=KGBの後継機関)に所属していたため、カンファレンスに集まった人たちも皆驚いたというもの。同種の「ブロックチェインはロシアのもの」という発言は、他のロシア代表の口からも発せられていたというので、この発言はかなり本気のようだ、と紹介されている。
ちなみに、著者のナサニエル・ポパーは“Digital Gold”という、ビットコインの普及の歴史をまとめた本も出版している、この道の専門家の記者。
この記事を読んで、そういえば、この間、ベネズエラで(ビットコインに準じた)クリプトカレンシー(暗号通貨)を発行する計画が公表された時も、その後にその計画がロシアの支援に依っている、という報道を見かけたことを思い出した。ベネズエラがメキシコ湾を挟んで、アメリカの対岸にあることから、その時も確か、かつてのキューバへの核配備のような文脈で、ロシアの関わりの意義について書かれていたように思う。
おそらく「インターネットはアメリカのものだが、ブロックチェインはロシアのもの」という表現におけるインターネットとは正確にはWWWのことで、要は、WWW‘(Worldwide Web)はアメリカ企業の独壇場だけれどWWL(Worldwide Ledger)はロシアが優位性を確保すべく行動する、ということなのだろう。つまり、インターネット上で新しいプロトコルを導入することでその標準化形成力を通じて、陰に陽に他国に対する影響力を確保していこうとする考え方なのだろう。
サイバーウォーというと、もっぱらハッキングによる相手国への常時干渉という、イメージとしては領空ないしは領海の侵犯のようなものとして想像されてきたけれど、それだけでなく、そもそもインターネットもプロトコルに応じて複数の「インターネット」に分割可能で、レイヤーやプロトコルごとに優勢な勢力が変わる、という事態が生まれそうだということのようだ。
先のベネズエラのように、いまのところ、ブロックチェインといってもその影響力は、もっぱら暗号通貨の基盤技術としてのもので、その効用も、いわゆる基軸通貨たるドルや、それに続くユーロ、円、ポンド、などの通貨の影響力を切り崩すためのもの、と見られていると思われるが、それをわかりやすい導入として使っていくということなのかもしれない。
いずれにしても、サイバーウォーの意味合いが、ビットコインの登場で微妙に変わり始めているように思える。
こういう時に思い出すのは、QRコードのことで、あれもスマフォにデジカメが標準搭載されることで利用の裾野が爆発的に広がった。同じように「化ける瞬間」が、ブロックチェイン周りに生じると見ても、それほど間違ってはいないのかもしれない。少なくとも、上の記事を見る限り、ロシアの人びとは真剣にそう未来を見ているようだ。