インテルの元CEOであったアンディ・グローブが79歳で亡くなった。90年代に、ビル・ゲイツとともに、いわゆる“ウインテル(Wintel)“マシンを推し進め、PCの普及を促した立役者の一人であった。
Andrew S. Grove, Longtime Chief of Intel, Dies at 79
【New York Times: March 21, 2016】
Former Intel CEO Andy Grove Dies at 79
【Wall Street Journal: March 21, 2016】
アンディ・グローブは、ロバート・ノイスとゴードン・ムーアとともに「インテル・トリニティ」として、インテルを創立期から支えた。いわゆる「ムーアの法則」が提唱された1965年から50年に亘り、その法則を法則足らしめた半導体の性能向上を実現させてきた。インターネットの登場以後、IT産業の中心は、アプリやクラウドなどもっぱらソフトウェアの方に変化の軸が移ってしまったが、しかし、そもそもCPUが小型化されなければ小型のパーソナルユースにかなうコンピュータなど実現できなかった。その意味で半導体産業の誕生は、今日のウェブ時代を支える基盤の中の基盤であった。
それにしても、このグローブの訃報を聞いて改めて気付かされたのは、グローブが79歳であったという事実そのものだった。冒頭でビル・ゲイツとともにウインテル時代を築いた立役者と記したが、その相方のゲイツは1955年生まれで、現在60歳。だから、二人のコンビは20歳も離れた世代を越えたものであったわけだ。
グローブが、ナチに追われてアメリカに移民したハンガリー出身のユダヤ系移民で、移民先のブルックリンでCCNYで学んだ、ということは、彼の伝記を読んで知っていたはずであり、ゲイツとの間にはそれだけの年齢差があることは気づいて当然のことだったのだが、あまりにも自然な二人の写真に見慣れていたせいか、意識することがなかったようだ。
けれども、その二人の年齢差自体が、先行して半導体が産業化し、その後にソフトウェアの産業化が続いたという事実を表してもいたのだった。
そう考えると、二人の学歴(学んだ歴史)も、ハードとソフトの違いをそれとなく示唆しているようで興味深い。グローブは、CCNYの後、カリフォルニアのUCバークレーでは博士号を取得したが、彼が学んだものはChemical Engineering(化学工学)だった。これから半導体工学が立ち上がろうとする時なのだから、後に半導体の製造技術に結実する周辺技術を学んだことが役立った。一方、ゲイツは、よく知られている通り、ハーバードを中退してマイクロソフトを創立した。プログラミングを学ぶというのが、工学というよりも文学に近く、好きでプログラムを書いているうちに身についてしまうことを表している。そのような性格の異なる「技術」を持ち寄って、コンピュータの世界が花開いたのだから、やはり面白い。
ちなみに、グローブが通ったCCNYは、アイビーリーグなどの有名校ではまだユダヤ系に対して差別があったため、当時はその分、ユダヤ系の有能な人材が集まり、それこそ、ユダヤ系のハーバードなどと呼ばれていたりした。そのCCNY出資のグローブと、ハーバードに通ったゲイツという取り合わせも、よくよく考えると不思議な組み合わせだったといえる。
もっとも、グローブの死去は、昨今のPCの劣勢を考えると多分に示唆的であることも確かだ。スマフォやタブレットの登場で明らかにPCのシェアは食われており、たとえば家電量販店に行っても、かつてのような喧騒は聞かれない。多くのPC(ウィンテルPC)はビジネスユースが中心のようで、メーカーも、レノボ、エイサー、HP、デル、などが中心になっている。日本のメーカーも、90年代後半にノートブックで躍進を遂げた時のような勢いは見られない。ホームユースの機種といえば、MacBookを選択する人は増えているように思えるが、なにより個人利用のコンピュータは、実はスマフォで十分という人のほうが当たり前になっているようだ。テレビとスマフォがあれば十分であり、スマフォはテレビ以外の4マス(ラジオ、新聞、雑誌)のビューアーとなっている。
そのような時期にかつてはウインテルという言葉でコンピュータ市場を席巻した立役者の一人が亡くなった。そこにPC時代の幕引き、というイメージを重ねてもあながち的はずれなことではないだろう。驚きとともに不思議としんみりとさせられたグローブの死去であった。ご冥福を祈りたい。