アメリカの無線行政を司るFCC(連邦通信委員会)が、大規模なPublic Wi-Fiの導入を改めて検討し始めたという。
Tech, telecom giants take sides as FCC proposes large public WiFi networks
【Washington Post: February 4, 2013】
Government Wants to Create Free Public 'Super Wi-Fi'
【Mashable: February 4, 2013】
このPublic Wi-Fiについては、GoogleやMicrosoftなどのIT/ウェブ系企業が賛同している。その一方で早くも、Verizonなどの既存無線通信会社大手が、本案に反対するためにロビー活動を始めているという。
スマートフォンやタブレットの利用者であればわかるように、データ通信については、Wi-Fiと3G/4G(LTE)が共に(デュアルで)使えるのが通常だ。それは、キンドルのようなe-bookでも変わらない。
スマートフォンは携帯電話から進化したため、音声通話に加えてデータ通信についても、携帯電話会社の無線サービスを利用するのが当然視されていた。
そのルールに楔を打ち込んだのが、AppleのiPhoneで、3Gに加えて、Wi-Fiも利用可能なデュアル機能を採用した。これは、iPhoneが、携帯電話からの進化というよりも、iPodからの進化形態であったことが影響している。ハードディスクを搭載した音楽再生機であったiPodには、音楽データのダウンロードを、母艦となるPC(マックないしウインドウズマシン)を経由して行う必要があった。つまり、インターネットを通じてダウンロードするのが当たり前だった。その意味で、iPhoneはiPodに通話機能も装備したものとして開発された。そのため、データの利用についてはPC×インターネットを利用することが当然のように考えられた。そこで、Wi-Fiが標準搭載された。(このあたりのことは、『ウェブ×ソーシャル×アメリカ』で触れている)。
モバイル端末のためには、当座は無線データ通信を使わないわけにはいかない。また、端末として普及を加速させるためには、コモディティサービス化した音声通話を提供しない訳にはいかない。そのため、スマートフォンの提供に当たっては、携帯電話会社と提携しなければならない。
裏返すと、Wi-Fiが広域にわたって用意されれば、携帯電話会社の無線データ通信を必ずしも利用する必要はない。その点で、上述のFCCのPublic Wi-Fi構想には、スマートフォンの提供会社であるGoogleらのIT/ウェブ系企業は関心をもつことになる。むしろ、企業戦略の自由度が増すことから歓迎すべきこととなる。
とりわけGoogleはそうで、彼らが携帯電話製造会社であるモトローラを買収したり、カンザス州でインターネット接続事業に手を出したりしていることも、オール・インターネットでサービスを完結させたいという考え方と符合する。Skypeのようなインターネット電話が普及してきていることも大きい。サービス面でも、オール・インターネットでユーザーの意向に応える素地が出来上がっていることになる。
逆に、既存の携帯電話事業者からすると、今後の設備投資計画にも大いに関わる案件となるため、ロビー活動に手を出すことも理解できる。
とはいえ、FCCがこのような政策を考えだした背景には、アメリカのブロードバンドサービスが、無線は携帯電話会社、有線はケーブルテレビ事業者、という具合に役割が固定されてきていることが指摘されてきたからでもある。
それは、Susan Crawfordの“Captive Audience”という本が年末あたりから話題になっていることにも見られる。“The Telecom Industry and Monopoly Power in the New Gilded Age”という副題の通り、この本はアメリカのインターネット接続サービス市場に競争がなくなりつつあることを憂慮している。
もちろん、もともとFCC委員長であるGenachowski氏がもともとシリコンバレー出身だということも影響しているとは思えるが、そもそも今回の大規模Public Wi-Fi構想が再浮上したのも、オバマ大統領の第二期が始まってしまった以上、このままブロードバンド整備で他国の後塵を拝する状態を放置するわけにもいかない、という政治状況もあるのだろう。
ところで、この大規模Public Wi-Fi構想の実行には、テレビ用として割り当てられていた周波数を利用することが必要になり、通信事業者やケーブル会社だけでなく、テレビ局も関わってくる。ということで、大規模Public Wi-Fi構想の周辺で、再び、IT、テレコム、ケーブル、テレビ、の間での綱引きが繰り広げられることになる。
この手の話は、もうかれこれ20年近く議論されてきていることなので、ちょっとやそっとでは前進しないのだろう。そう思う一方で、第二期に入ってのオバマ大統領のホワイトハウスの動きを見ると、少なくとも次の中間選挙がある2014年までの間に、第一期で棚上げになっていた各種政策が一挙に立法過程に掛けられるように思われる。政策過程の用語でいう「Policy Windowが開いた」状態にあるからだ。その意味で、オバマ大統領の就任演説の直後に出てきたこのFCCの構想には、今までとは違う「本気度」があるのではないかと思われる。技術とビジネス戦略と政治的駆け引きが交差する案件として注目しておきたい。