まだ観測記事の段階だが、金融情報サービスの大手であるBloombergが、イギリスの金融情報紙の最大手であるFinancial Timesの獲得を検討しているという。
Bloomberg Weighs Making Bid for The Financial Times
【New York Times: December 9, 2012】
金融の情報化が本格化し始めた80年代初頭に、ディーラー向けの金融情報端末の提供によって急成長したBloombergが、その情報提供の幅を拡げるためにFinancial Timesの獲得を考えているようだ。FTは金融経済誌であるThe Economistの株式も所有しているため、FTの獲得は、新聞だけでなく国際的に信用の高いクオリティ誌であるThe Economistとの強固な繋がり(あるいは獲得)にも繋がることになる。
既にBloombergは2009年にBusinessWeekを購入し、Bloomberg Businessweekとしてビジネス経済誌の一角を担うようになっている。また、ニュース部の記事はウェブサイトを中心に様々な既存のニュース媒体にも配信されている。たとえば、Washington Postのビジネス記事はBloombergの配信からなっている。いわゆる通信社機能も併せもっている。
従って、今後、BloombergがFTの確保に乗り出しても違和感を感じることはない。むしろ、金融・経済・ビジネスの「情報」の集積地としての地位を高めていくことになるのだろう。
もちろん、付随して気になるところは、紙かウェブか、という配信方法のところで、上の記事によれば、FTの「紙」部門も契約収入・広告収入の両面で苦戦しているようだ。となると、仮にFTを獲得したとして、当面は、情報配信業としてのBloombergの地位の向上・拡大に貢献させた後に、紙から電子への移行策に着手することになるのだろう。
もともとBloombergは金融市場の、いわゆるマーケットデータの提供から始まったので、データを電子的に届けることに長けている。それに加えて、この先は、瞬間的にアップデイトされるマーケットデータに対して、もう少し引いた、俯瞰した立場から情勢を見通すための視座を届けるところでも地歩を築く、ということなのだろう。
それにしても、仮にThe Economistまで獲得できてしまった場合、今発行しているBloomberg Businessweekとの住み分けはどうするのだろう。あるいは、統合をするのだろうか。いうまでもなく、FTにせよ、The Economistにせよ、ロンドンの、イギリスに拠点をおいた情報網、情報解釈業であり、その視点はNYでも尊重されていた。昔、留学時にファイナンスの授業を取ると、どの先生も口を揃えて、FTとThe Economistを読め、と言っていた。それはWSJにしても(当時の)BusinessWeek、あるいはFortuneやForbsは、アメリカ国内の動きばかりを取り上げて、世界的な視座に欠けるから、というのが理由だった。だから、万が一にでも、The EconomistがBusinessWeekと統合されるようなことになれば、The Economistの良さを失いはしないかという懸念は出るだろう。
もちろん、仮定の上に仮定を重ねても仕方ないのだが、しかし、財務面で決して余裕を持てなくなったニュースや情報誌の周辺では、これからも買収や統合という話は続いていくのだろう。あるいは、そのようなレベルにまで達さないで市場から退場する企業もでてくるのだろう。今はとりあえず、救済を含めて、他業界からのマネーによって、経営を立て直すような段階なのかもしれないが、それがひと通り済んだ段階で、気付いてみたら、金融・経済・ビジネス誌の数が大いに減っていた、ということにならないか、気になる。
音楽にせよ、映画にせよ、数社からなるメジャーが中心となる時代になっている。ウェブの世界ですら、Apple、Google、Facebook、Amazon、の四強(Big Four)で語られることがすっかり定着している。それと同様のことが情報提供の分野でも起こるのかどうか。情報という生態系の維持、ダイバーシティの確保、という点で気になるところだ。