新たな政治経済拠点となったシリコンバレー

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November 17, 2012 11:44 jst
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junichi ikeda

シリコンバレーの企業/起業家たちが、第二期オバマ政権に期待する施策について、ワシントン・ポストの記事がまとめている。

Silicon Valley’s second-term wish list
【Washington Post: November 9, 2012】

大きくは7つの分野についての要請があるが、しかし、この要請がそもそも意味を持つのは、シリコンバレー、というか、ベイエリア、ないし、その中核都市としてのサンフランシスコが、オバマ大統領への政治献金額で、ハリウッドやニューヨーク(ウォール街)を越えているという報道に基づいている。

Bay Area money fills Obama campaign coffers
【San Francisco Chronicle: November 3, 2012】

この数字をまとめたのがサンフランシスコ・クロニクルであることは記憶しておいたほうがよいが、とはいえ、この数字が本当ならば、確かにベイエリアの意向が、第二期オバマ政権の商工業(産業)分野にも影響を与えることになるのだろう。簡単に言えば、ベイエリアの考え方が連邦政府という経路を通じて国際的な政治的取り決めについても影響を与えていくことになる。裏返すと、イノベーション振興策、というのも、確かに経済成長上必要な政策として中立的なものとして捉えるだけでは足りないのかもしれない。そこには、ベイエリアの意向として、イノベーションを意図的に選択する、という考え方も反映されたものとして捉えることも必要になるのだろう。

そのベイエリアが希望する政策として上のワシントン・ポストの記事がまとめたのが、次の7つの施策だ。

●移民政策の改革
世界中のトップ頭脳がベイエリアで就業し起業できるようにする。

●高等教育におけるイノベーションの推進
教育内容だけでなく、教育方法についても、たとえばウェブやITを活用するなど、革新を望む。

●ISPにおける情報と競争の自由の推進
電話会社とケーブル会社による複占(duopoly)が常態化したインターネット接続事業において改めて競争原理を導入する。

●多くの代替エネルギー企業への政府の小口投資の推進
巨大投資を一企業に行うのではなく、代替エネルギー開発の複数の可能性を担保し、開発を継続させるためにも、政府の少額投資を他の民間企業からの投資の呼び水とする。(おそらく政府の投資査定が一定の裏書になることも想定しての施策。)

●ソフトウェアのパテントの(継続延長の)停止
パテントを巡る法的争いあるいはM&Aは産業全体としてコストの増大にしか繋がらず、イノベーションを停滞させる。(知恵の部分はできるだけ公知として扱えるようにする)。

●アカデミックな研究の強化とその商業化の強化
イノベーションの源泉である研究を推進し、その商業化を推進する。(要するに、スタンフォード方式を全米に広げていく、という方向)。

●キャピタルゲイン課税免除を伴う長期投資の支持
キャピタルゲイン課税が短期ベース(つまり投資ではなく投機ベース)になっているのを、長期投資を考慮したものに変える。(税制優遇を行うことで、その分雇用確保にも繋がる、という意見も添えられている)。

こうした7つの施策から見えてくることは、ベイエリアが、文字通り、リチャード・フロリダいうところの「クリエイティブ・クラス」を再生産する拠点でありモデルになる、という方向性だ。情報技術の進展によって起業し、そこで富を築いた人びとが、そのメカニズムを再生産するために結集し、ハリウッドやウォール街のように、連邦政治の帰趨にも影響を行使する。その意味では、ある政治経済的傾向を実現する都市区としてシリコンバレーないしベイエリアが自己規定を始めたとも言える。

サンフランシスコが、ニューヨークやロサンゼルスに続く第三の文化都市になるだけでなく、政治力を行使する街にもなる。こうした位置づけもまた、この2012年大統領選で明らかになった新たな現実の一つなのだと思う。