11月6日の大統領選の結果を受けて、負けた側の共和党は敗戦分析を行なわざるを得なくなった。専らその理由は、オバマの勝利分析の裏返しであり、ヒスパニック票の増加に代表される人口動態の変化や、デジタル情報環境を当たり前に感じる若年層という新たな票田に対処できなかったことなどが挙げられている。
そんな敗戦分析の中で、当のロムニー氏が、大統領選以来初めてコメントした内容が話題を集めている。その主旨は、オバマ大統領が勝利したのは、黒人、ヒスパニック、若者(特に学生)に、都合のいい贈り物=ギフトを確約することだったからだ、という。
Romney Blames Loss on Obama’s ‘Gifts’ to Minorities and Young Voters
【New York Times: November 14, 2012】
話題を集めているといっても、次の2014年の中間選挙、2016年の大統領選への対策を迅速に練らなければならないと感じている共和党の中核政治家たちからすると、もう余計なことは言わないでくれ、というのが大勢の意見のようだ。つい二週間ほど前までは、ロムニー勝利を信じて疑わないという感じでいたことを思えば、文字通り、掌を返したような対応で、さすがに苦笑せざるを得ないのだが、しかし、それほどまでまずい状態にある、というのが、共和党側の実感なのだろう。折りしも、共和党所属の州知事のカンファレンスがあり、そこで2016年の大統領候補の一人であるBobby Jindal氏らがロムニー氏の発言を否定するコメントを発している。
GOP governors back away from Romney remarks
【Washington Post: November 16, 2012】
共和党がどうなるのかは、アメリカという国を考える上で今後重要な視点になるので、具体的にこの先どう現状に対処するのか気にかけていくしかない。むしろ、ここで気になるのは、当のロムニー氏のコメントについてだ。
この共和党の人たちの反感を知る前にロムニー氏の発言を知って最初に思ったことは、ロムニー氏というのは、やはりCEO上がりのビジネスマンで政治家ではなかったのだな、というものだった。
そのように感じた理由は幾つかあって、まず、ヒスパニックや学生に向けて都合のいい条件を出して票を獲得するというのは、それらが公約の一つである以上、現実の政治の基本形のはずだ。その基本をとやかく言えてしまうほどロムニーという人はピュアな人だったのか、というものだ。利益誘導型の政治は、連邦議会、とりわけ下院では当たり前のことであり、むしろ、その利益調整こそが下院議会の政治の醍醐味となる。もちろん、利益誘導という行為そのものは決して褒められたものではないが、けれども、その調整をどう図るかこそが議会政治の中核で、大事なのは、あまりにもあからさまでバランスを欠いた誘導はまずい、というところにあるはずだ。これでは、ロムニー氏は、政治家といっても、CEO出身の知事でしかなく、予算は専らトップダウンで決められると思っているのではないかと思われても仕方ないだろう。
もう一つ、彼の発言で気になったのは、個別の利益誘導を越えて、アメリカ全体の利益を考えようという姿勢を出しているところで、この部分も政治家としては妙にピュアに聞こえてしまう。ここは、今回の選挙の直後に幾つかの評価として聞かれた、共和党はParty of Memory(記憶/思い出の党)となっているという言われ方に近いものを感じる。一定の所得や資産を既にもった白人の人たち(多くは男性)が、かつてあったアメリカを懐かしみ、その維持を望んでいるというのがParty of Memoryの主旨だが、そのことと呼応しているように思われる。
そして、まさにこの部分こそが、Jindalのような人たちが気にかけているところだ。たとえば、ヒスパニックの増大に対処しないことには、共和党はますます周縁化してしまうという危惧だ。というのも、ヒスパニックの増加という点では、今後は、南部のうち、都市化と産業化の著しい、ジョージア、テキサス、アリゾナあたりがスイング・ステイツの仲間入りをする可能性が高いと見る向きは多いからだ。とりわけ、テキサスは大問題であり、もしもテキサスがスイング・ステイツになれば、選挙戦の組み立て方そのものが変わってしまう。ましてやテキサスが民主党支持のブルー・ステイトになってしまえば、それは実質的に共和党は地方政党になってしまう。なぜなら、カリフォルニア、ニューヨークに加えてテキサスがブルーになってしまえば、それだけで代理人数の基本で圧倒的に有利になってしまうからだ。この十数年続いている、オハイオやフロリダなどの、人口数の比較的多い州の動向を気にする必要がなくなる。
ということで、今回の大統領選は、様々な意味でアメリカ史の中でも転換点となった。そのことを明らかにしてくれものとして、オバマ大統領の勝因分析だけでなく、ロムニー氏の敗因分析、あるいは、それを受けて共和党がどう自分たちの位置づけを変えようとするのか、にも目を配る必要があるだろう。裏返すと、全米からの支持を競う大統領選がもつ意味を再確認しておく必要があるのだろう。
最後に、個人的に気になるのは、今回のロムニー氏のように、ビジネスマン上がり、CEO上がりの政治家というのは、今後、どうなるのだろう、という疑問がある。たとえば、2010年にカリフォルニア州知事を目指したメグ・ホイットマン(元eBay、現HPのCEO)のような人は今後現れるのだろうか。ブッシュ(子)大統領の時のチェイニー氏のように、政治家を経ずともランニングメイトとして大統領候補から副大統領候補に指名されて、自ら選挙を受けた経験がなくともビジネスマンあがりの政治実務家が表舞台に上がることもある。こうしたビジネスマンと政治家の接点がどう変わっていくのか。実は、この背後には、まさにロムニー氏がそうだったように、ビジネスマンが富を築きやすく、その富を使って、メディア露出が不可欠になった(その意味で金のかかる)選挙に打って出るだけの個人資産を持っていたという、80年からこの方の時代状況がある。しかし、こうした前提も、ウェブの登場によってメディア選挙の性格が変わることでまた変わり得る。
いずれにしても、2012年の大統領選は、後から振り返った時、大きな節目になった出来事になるような気がしてならない。