様々な古典的テキストのペーパーバックを世界中で販売してきたことで有名な英系のPenguinと米系のRandom Houseが、電子書籍時代を見据えてJVの形で統合することを発表した。
Penguin, Random House to Combine
【Wall Street Journal: October 29, 2012】
現在、Penguin は英系のメディア・コングロマリットであるPearsonの傘下にあり、一方、Random Houseは、元々はアメリカの出版社だったが今ではドイツの、これもメディア・コングロマリットの一つであるBertelsmannの傘下にある。そのため、親会社のPearsonとBertelsmannから見れば、共同出資のJVの形で統合を進めることになる。
WSJの記事にある通り、今回の統合は、e-bookの市場環境整備の帰結として捉えられるようだ。背景には、Appleと5つの出版社に対してe-bookにおける価格維持が共謀されていたという理由で司法省反トラスト局が訴訟を起こしたこと(そのうち3社とはsettlement(和解)が成立)。これによりAmazonによるe-bookのディスカウントが可能になり、改めて、e-book市場でAmazonの先行優位性が明らかになってきたため、今回の合併はそれへの防衛措置としての動きと位置づけられる。
簡単に言うと、出版社を集積させることで、Amazonに代表されるe-bookのプレイヤーに対して交渉力を増そうとする動きといえる。その結果、出版社間の自発的な連携/統合の動きが本格化していくことになる、ということなのだろう。
記事によれば、娯楽作品の分野で、e-bookでの売上比率が上がるにつれて、プリント書籍の印刷・配布・在庫のコストが目立つようになっているようで、在庫書籍保管用の倉庫を閉めたという話も記されている。だとすると、このような営業費用管理の観点から、一般向け書籍、とりわけ娯楽部門の統合は今後も続いていくことになると見るのがよさそうだ。
今回の動きで一つ興味深いのは、イギリス系のPenguinと(Bertelsmannの傘下にあるとはいえ)アメリカ系のRandom Houseが先ずが統合を表明したところだ。これは、英語本のマーケットとして、イギリスもアメリカもないということをよく表している。その点で、統合のメリットがわかりやすい。この動きが、音楽や映画のような国際的な「メジャー」と呼ばれるパブリッシャー(もはや「出版」という「版」の字を持つ訳語は適さないと思うのでカタカナにする)の登場の始まりになるのかどうか、気になるところだ。
と同時に、そのようなマクロな企業間の連携・統合だけでなく、翻って、それがパブリッシャーの大元である「原作作り」の現場にどうフィードバックされるかも気になる。在庫概念を気にする必要がない以上、初刷の分量で初発の印税=作家への支払いを決める方式も単純に意味をなさなくなるだろう。となると、当然、作家とのパブリッシング契約をどうするのか、という論点にも繋がることになる。ただし、契約はあくまでも民間の当事者の間の話となるので、合併や価格維持のような当局が現れて方向を示唆するような形にはならないだろう。アメリカのe-bookの動きについてはそうした動きこそが次の焦点になると思われる。