Pebbleという時計型のARガジェットがちょっと気になる。Kickstarterで10万ドルを募ったところ、あっという間に50万ドルを集めてしまったという。
iPhone-Friendly Watch Gets $500,000 Kickstarter Funding in a Day
【Mashable】
How The Pebble Smart Watch Hit $2 Million On Kickstarter [Q&A]
【TechCrunch】
この間のGoogle Glassの公表の際に、Appleの場合はGlassではなくWatchに行くだろう、という見通しに触れたはずだけど、このPebbleはその方向のプロトタイプの一つといってよさそうだ。
Pebbleについては幾つか気になるところがあるのだけど、まずは二つほど。
●このプロジェクトがKickstarterで開発資金を調達したこと。
一つの商品がサポーターとともに出来上がっていく。Kickstarterは今までも何度か触れてきたけれど、大抵の場合は、アーティスト予備軍による映画やアート作品の制作、研究者予備軍によるニッチな研究プロジェクト、大学卒業の冒険旅行的な世界クルーズなど、おおむね個人によるプロジェクトをサポートするためのファンドレイジング方法として機能してきた。
けれどもこのPebbleの場合は、スタータップが想定する商品の開発資金を提供するということに近い。感覚的には同人誌的なノリに近い。「同人・物(ブツ)」とでもいうべきもの。
当然、そうして資金提供した人たちは、βテスター的な位置づけも得られるのだろうし。
なんというか、「同人・物(ブツ)」とは書いたけれど、むしろ、アメリカだとよく見かける、まずは地元から始まったアイスクリーム屋やダイナーが住民のサポートを受けながら事業を拡大していくのに似ている感じがする。そんな予感がする。
そういう周りの支援とともに大きくなる事業は、食べ物関係のように、素材や道具が誰でも手に入れることができて(=コモディティとして流通していてい)、わりと簡単に始められるからこそ、サポーターの後押しで大きくなることができる。
Pebbleの場合は時計だから機械製品なのだが、後述のようにアイデア商品的な感じもするところがあって、その特徴を、ウェブを介して広く人々の支援を受けて行なっていく、というところがある。
もちろん、Kickstarterで資金を提供する側のいい意味での軽さもあるだろう。普通のものってつまらない、何か面白いものはどこかにないのか?ないなら作りたいって言ってる奴らに作ってもらおう・・・的なノリの人たちが集まる場所として、DIYを支持する人たちが集まる場所としてKickstarterが機能しているからこそ、Pebbleのような商品のアイデアが支持されるといえるのかもしれない。
●腕時計を賢くするものだが、通信機能はスマートフォンに委ねているところ。
Pebbleには直接的には広域のデータ通信機能は搭載せず、あくまでもそのような通信機能はスマートフォンに委ねているところ。その意味では、スマフォやタブレットを母艦扱いにして、あくまでもその利用を容易にするためのツールとして位置づけていること。
その点では、非常に原初的なウェアラブル・インターフェースといえる。
ウェアラブルコンピューティングと言わないのは多くの計算/演算機能はスマフォ(やタブレット)の方で請け負うわけで、その意味でPebbleは「邪魔にならないインターフェース」というところがポイント。体に装着しているから、普段は注意を向ける必要はなく、注意が必要な時はそのことを教えてくれるものとして位置づけられる。
この発想は、スマフォの普及が見えたからこそ可能となる機能の絞り込みだろう。
クラウド化によって計算資源のネットワーク側での保持の可能性も強まってくると、結局のところ、計算資源と通信資源と認知(インターフェース)資源をどう分配するか、それらをトータルでどうデザインするかが大事になるが、とはいえ、それらを一社でやろうとすると変数が多すぎて焦点がどうしてもぼやけてしまう。だから、大企業が行おうとすると、垂直統合型で全部を制御しようとするGreedy=欲張りなものになりがちだ。けれども、Pebbleの場合は、大企業の競争を通じて、それらの配分の実勢が見えてきたところで、ウェアラブルなインターフェースに特化したところが面白い。いい意味でパラサイトな開発の仕方だ。キンドル同様にEペーパー、Eインクを利用して、その分バッテリーの持ちを長くする、というのは、現実的。
このように、このPebbleのプロジェクトは、いろいろと思考を触発してくれる。
とはいえ、当初はアイデア商品の性格は免れないだろうから、この方向をどう軌道修正していくかが今後は気になる。その点では、もともと自転車野郎だった開発者が、自転車に乗っている時に、簡単に利用できるガジェットが欲しかった、と感じたことが開発のきっかけだったというところに注目したい。同じく利用シーンにおける直観をうまく今後の開発・改良に反映していってほしいと思う。
それにしても、開発チームの彼らはカナダ出身なのだという。英語圏というかアングロサクソン圏は、本当に国境を無効化しつつある。もちろん、彼ら自身が、リチャード・フロリダいうところのクリエイティブ・クラスだからなのだろうけど。この点もなかなかに興味深いところだ。