Googleがウェブ上での音楽ビジネスに参入に乗り出すとWSJが伝えている。
Google to Unveil Online Music Store Wednesday
【Wall Street Journal: November 16, 2011】
公表はアメリカ時間で水曜とあるから、事実ならもうすぐ発表ということになる。
ともあれ、記事によれば、ダウンロードタイプの音楽ビジネスをGoogleが始める。音源の提供には、Sony Music Entertainment、Universal Music Group、EMI Music、が参加する。
もっとも、EMIについては、つい先日、レコードビジネス部門をUniversalに、音楽出版部門をSony(を中心とした投資家グループ)に売却することが公表されている。
EMI Is Sold for $4.1 Billion in Combined Deals, Consolidating the Music Industry
【New York Times: November 11, 2011】
In EMI Split, Digital Overtones
【Wall Street Journal: November 16, 2011】
そのため、実質的には、Sony とUniversalの音楽ビジネス二強がGoogleと組むことになる。2008年のSonyによるBMGの買収と、EMIの解体によって、音楽ビジネス自体は、SonyとUniversalにWarnerを加えたBig 3にまで寡占が進んだ。(興味深いのは、BMGの時は音楽出版部門はUniversalが取得していることで、今回のEMIはUniversalとSonyで立場が逆転したことになる)。Googleからすれば残るはWarnerとIndependents(いわゆるインディーズ)のみ、ということになる。
Googleが予定するサービスは有料ダウンロード型というから、基本的にはAppleのiTunesに近い。一曲あたり1ドルの対価でダウンロードしたファイルは、Googleの開始したソーシャルネットワークであるGoogle + 上で友人など1-2名に対しては無料で聴かせることができるという。
発表にあたり問題となるのはユーザーが既に所有する音楽ファイルを収納するGoogle Music Beta というサービスで、これにより個人的にクラウド的な利用、つまり複数の端末からのファイルの利用をアクセスを通じて可能にするもの。これについては、音楽会社と話がまとまっていないという。
いずれにしても、以上のスペックはWSJの観測記事なので、実際の内容はGoogleの発表を待つしかない。
とはいえ、Amazonがクラウド型のコンテント利用サービスを始めようとしているところで、Googleはダウンロード型のサービスを自社のソーシャルネットワークサービスであるGoogle + を通じて開始するわけだ。こうなってくると、Googleの性格も、検索をはじめとするオープンなインフラ的企業というものから、徐々にサービス企業のものへと変更されつつあるように思われる。そして、それにあわせて、Google自身がむしろ、ウェブの断片化、閉域化を結果的に促進しているようにも思える。
こうなってくると、ソーシャルネットワークという名とは裏腹に、少し前にあったWalled Gardenのようなサービスに徐々に向かいつつあるようにも思われる。そこでは何らかの形で「パスポート」と呼ぶのにふさわしい登録と身分証が、個々のサービスごとに作られていく。Gmailで実質的に自分のメール内容をいつでもGoogleに晒すことが可能な状態にあることが当たり前になっているところで、今更ナイーブになるのもおかしなものなのかもしれないが、確かに改めて匿名性、そのための追跡可能性の制限、等が同時に提案されていかなければならないのだろう。それは、アメリカの場合であれば、先行する民間企業の振る舞いに対して、政府当局が後追いながらも制約を加えていくという、ちょうど金融商品の取引と同じような事態が定着していくのだろう。たとえば、登録ユーザーのプライバシー情報をめぐるFacebookとFTCとの間の取り決めのように。
F.T.C. Said to Be Near Facebook Privacy Deal
【New York Times: November 10, 2011】
そのようなパスポートでログインした後のコミュニケーション活動については、シェアをどう実現するか、つまり、技術的にどのようにするか、経済的にどう関係各位に対価を分配するか、などを含めて、議論がなされていくのだろう。EMIが目先のキャシュを生み出すレコードビジネスと、長期的なライセンス付与の管理=決定権を握る音楽出版ビジネスにわざわざ分けられて売却されたことも、もちろん関係する。
音楽出版とは英語のMusic Publishingの直訳が定着したものだが、publishingとは文字通りあるものをpublicにする、すなわち公開することにある。となると、そろそろ出版という訳を当てはめ続けることも見直したほうがいいのかもしれない。
音楽ビジネスはNapsterこの方、常にウェブ上のコンテント流通・配信の最前線を形成してきた。そして、シェアが当然、むしろシェアを促す方向に人々を向かわせるソーシャルネットワークの時代になって、再び制度やビジネス上の最前線となっている。
まずは、Googleの公表を待つことにしたい。