Intel、3Dチップ投入でムーアの法則を堅持する

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May 05, 2011 10:21 jst
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junichi ikeda

Intelが従来のCPUチップの設計方法を革新する3Dチップを公表した。現行のチップ(2D)の設計方法が1959年以来基本的には変わらなかったことを踏まえると、50年ぶりの設計思想の変化ということになる。

Intel Increases Transistor Speed by Building Upward
【New York Times: May 4, 2011】

Intel, Seeking Edge on Rivals, Rethinks Its Building Blocks
【Wall Street Journal: May 5, 2011】

Intel claims 3D chip revolution
【Financial Times: May 5, 2011】

実は、最初に3Dチップと聞いたときは、流行りの3D映像処理用のチップを開発したのかと思い、見過ごしていたのだが、よく見ると、50年ぶりの開発方法の変更、ということで驚いた。

Intelによれば、2Dから3Dへと移行することでチップに搭載できるトランジスタの数を増やすことができ、CPUの速度を増すことができる。これにより、有名なムーアの法則、つまり、おおよそ二年ごとにCPUの速度が二倍になる、という法則が継続されることになる。

もともとムーアの法則は、Intelの創始者の一人であるゴードン・ムーアが1965年に提唱したもので、当時は10年後の75年までを見通してのものだった。それが今でも適用できるということは、むしろ、過去40年間に亘り、ムーアの法則をまさに「法則」たらんとして、技術開発が進めれられきたということになる。これはこれでとても興味深い現象だと思う。

つまり、ムーアの法則は、人間の開発力も含めてのものだから、それを維持しようと思えば、人間が開発努力を続けるしかない。いわば自縄自縛の状態にあるわけだが、この「ムーアの縛り」が、むしろ、Intelをはじめとした半導体関連会社での技術革新を促してきたわけだから。

よくよく考えれば、イノベーションという言葉がマネジメントのテーマとして喧伝されるように成った背景の一つには、いわゆるIT革命があり、そのIT革命を支える、基幹の技術革新がCPUの速度の向上ということだった。CPUの速度が増し、記憶容量コストが劇的に下がると見通せるからこそ、新たなソフトウェアの開発が進められてきた。つまり、ムーアの法則が信じられるからこそ、今日のイノベーション志向のマネジメントの信憑性が増してきた。

要するに、ムーアの法則はイノベーションの神話を支える土台として機能してきた。

だからこそ、ムーアの法則の総本山であるIntelは、その法則の堅持に必死になった。

今回の3D化は、ざっと見た限りでは、今日的な(つまりムーアが想定していなかったとおぼしき)ナノテクを使っているように見えるのも、ムーアの法則の堅持こそが目標にあるからに思えてくる。このあたりは、実に興味深い。

この3Dチップは使用電力の点でもより省エネタイプのものになるという。これも今日的要請の一つだろう。とりわけ、311後の計画停電で情報機器の電源確保の問題がクローズアップされたことを踏まえると、こちらも興味深い。

ソフトウェアの分野は、従来とは異なる、あっと言わせるようなアプリケーションの開発が中心で、その分、衆目を集めやすい。それに比べれば、チップ開発というのは、それが基幹部品でもあっても、地味で目立たない。しかし、こうしたハードウェアの部分があるからこそソフトウェアの世界も成立しうる、というのが、311を通じて再確認させられたことだと思う。

50年ぶりの開発方法の革新によって、ムーアの精神は保持しながら、現在利用可能な技術を駆使しながら、現代の社会的要請にも応えていく。いわば、ゴードン・ムーアの「法則」が、松下幸之助の水道哲学よろしく、Intelのモットーとなっているわけだ。だからこそ、前社長のアンディ・グローブの言うとおり、「(常に自らを破壊して未来を先取りしようとする)パラノイアだけが生き残る」ことができる。

今回のIntelの公表は、一見地味だが、その含意は当初想定した以上に深いといえる。