Netflix、Hulu, AOL等が、ウェブ上で、ドラマなどオリジナルの映像作品を制作し配信する方向に動き出している。PC/ウェブだけでなくタブレットでの視聴も見越してのことだという。
Web Shows Get Ambitious
【Wall Street Journal: March 21, 2011】
たとえば、Netflixは、デヴィッド・フィンチャー監督でケビン・スペイシー主演ドラマの制作の契約を交わしたという。
随分前から言われているように、Netflixは今ではストリーミングによる映画視聴サイトであるから、ハリウッドを中心に権利所有者がNetflixでの配信をいっせいに引き上げれば、同社のウェブビデオサービスでの立場は一気に崩れてしまうからだ。実際、従来でれば、ケーブルテレビ経由で見られていた映画の多くは、当のケーブル会社が提供するインターネット接続サービスを通じてNetflixを視聴することでパイパスされ始めている。月額の定額制の導入でNetflixの方が圧倒的に価格競争力を持つからだ。加えて、視聴のためのハードもPCではなく、テレビのモニターを利用することも可能になってきた。フラットTVの大画面では映像の密度の高い映画やゲームの方が映えることも影響する。
そのような視聴環境の変化もあり、Netflixに限らず、Hulu、AOL、等も乗り出している。Huluはキーファー・サザーランド出演のドラマを作るという。このあたりは、むしろ、ハリウッドの制作体制が、現実的にはプロデューサー・システムであり、そのプロデューサーに知名度の高い(つまりオスカー受賞歴などのある)俳優も組まれいることも影響している。いい意味でタレントドリブンで制作を開始できる。契約条件も変えていくことができる。
ここでは名前が上がっていないが、映像配信については、もちろんAmazonの存在も捨ておけないだろう。
このような映像配信会社がいわば新たなケーブルテレビのようにプロダクションにアプローチしているのに対して、それらの動きをさらに俯瞰した上で、映像配信のメタなポジションを占めようとしているのがGoogleのようだ。
The Evolving Mission of Google
【New York Times: March 21, 2011】
一般的な印象では、YouTubeを持つGoogleは、先述のような「予め造りこまれた映像作品」だけでなく、より機動力のあるライブ性の高い映像の配信に力を入れようとしているように見える。それは「配信」ではなく、映像の「共有」、つまりは「ソーシャル」と呼ばれる特性の方に関心があるように思えるからだ。Googleの最大の資産は、ユーザーの利用、という理解も影響していると考えていいだろう。
とはいえ、さしあたっての動きは、NBA(バスケット)やNHL(アイスホッケー)の配信許可をそれぞれのリーグと交渉し、Lionsgateのようなプロダクションに映像作品のアーカイブの配信を依頼している。あるいは、1億ドルを用意して名のあるセレブリティに各人のチャンネルをYouTube上に作ってもらうように依頼している。その点では、むしろ、正当なメディア企業の動きに近い。
どうしてそのようなメディア企業の動きをしているかというと、Googleからすると、ウェブ上でコンテントが(金銭的な価値が低い=安いという意味での)コモディティになってしまうと、Googleの収入源であるアドバタイジングも同様にコモディティになってしまい、それは長期的にはウェブのエコシステムに影響し、Googleの収益にも影響を与えるかもしれない。そのように考えているように思える。
この見方は興味深い。というのも、もっぱらGoogleというとロングテールの方に力を入れてきた企業であったように思えるが、この見方は、ロングテールよりもロフティヘッドの方にこそ、今はテコ入れをしないといけない段階になったということを意味すると思うからだ。
そうして、ウェブにも、ロフティヘッドを占めてきた、クオリティ・コンテントの制作と受容が行えるようにすることに力をいれる。そうして、既存のメディア制作の関係者たちが、ウェブへの移民をつつがなく行えるような仕組みを作る。そのための水先案内人として、メディアコンテントのウェブでの配信を試みているのだろうし、たとえば、Google One Passのような、コンテントの契約の仕組みもそのような動きの一つと見ていいだろう。
いずれにしても、先日発表されたNYTの有料化の動き等も含めて、当のメディア企業も、ウェブを21世紀の終の棲家としようとする動きが出始めていることも確かだろう。映像を含めてコンテント作品の受容拠点として、ウェブへのメディアの移民が始まったと思ってもいいのだと思う。