VCではなく顧客の支持=返礼でビジネスを回す

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March 04, 2011 21:15 jst
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junichi ikeda

ここのところ、FacebookやTwitter、Grouponあたりを中心に、かつてのITバブルのような感じで、投資家の関心が高まっていることばかりが伝えられているが、そのような、投資家頼みの資金調達に頼るのではなく、実直に顧客からの支払いベースでビジネスを回すのが一番と言っている人物がいる。TumblrのCTOを務めていたMarco Armentがその人だ。

Instapaper’s Arment: Seek Money From Customers, Not VCs
【GigaOM: March 3, 2011】

Armentは上の記事にあるように、今は、Tumblarを辞めて、Instapaperというサービスを提供する形で起業している。

彼の考え方は、ともすればウェブサービスは何をしているかわからなくなりがちだが、きちんと対価をユーザーから受け取ることで、サービスそのもののあり方を明確にして、実直にビジネスとして回していけ、ということで、極めてまっとうな考え方。

日常の営業業務でキャッシュを得、それを開発資金とすればよく、必要もない資金をVCや外部の投資家に頼む必要はないとしている。その一方で、顧客からは、自分たちのサービスに対する、いわば一種の返礼として、きちんと対価を支払ってもらうようにすればいい、と言っている。

極めつけは、自分のやりたいことをするにはマーケットの全てを手中に収める必要はなく、せいぜい5%もあれば十分だ、と捉えているところ。そのために、サービスに照準して、利用者の支払いがそのサービスを直接支えていることを利用者自身に理解してもらうことに努めるということだ。

至極まっとうな考え方で、ここのところの、プチITバブルの対極を行くものだ。

ただ、とはいえ、幾つか気になるところはあり、

まず、5%と言った時、その母集団はどれくらいの規模か、ということになる。アメリカで開発している場合は、英語圏はまず、その対象になる。アメリカ、イギリス、それにイギリス連邦加盟国、それにEUぐらいまでは黙っていても対象になる。まず、それだけの母集団の規模がある、ということ。

それから、Armentの言っている「返礼としての対価の支払」という考え方は、とてもアメリカ的なものであることだ。いわゆるフリーマーケットの存在や、バザーなどの寄付の機会が頻繁にある日常があるからこそ、「返礼としての対価」という考え方を人々に訴えることができる。

さらに、ウェブ企業はアプリ開発が基本となるが、ユーザーが当該サービスをアクセスしてくれるには、ウェブ利用の契約や、PCやスマートフォン、タブレットなどの端末の購入が、既に社会的慣習となっていることだ。それらが環境としてあり、直接、個々のウェブの企業がコストとして認識せずに済んでいる。だから、企業の規模がまさに小さい時にはこうした問題に直面しないが、大きくなると、このようなウェブ環境のエコシステムそのものが、事業に関わってこざるをえない。たとえば、net-neutrality等はその手の問題の一つだ。

もちろん、だからこそ、小さいままが一番、という態度をとれるのでもあるが。

とはいえ、一点目、二点目が当たり前と思えるのはアメリカという社会環境の下にあるから、というのは気にかけておいてもいいと思う。つまり、日常の営業活動が、どのような環境の下で成り立っているのかというのを気にかけるということだ。

Armentが至極まっとうなことを言ってるだけに、ベースとなる規模や慣習の違いを気にかけることは大切だ。シリコンバレーのVCだけがウェブ企業の起業のあり方を支えているわけではない、ということの事例でもあるだけに、尚更、その背景まで考慮に入れておく必要があると思う。

もちろん、Armentのような営業キャッシュフローベースでビジネスを回したところが、そのままユーザーベースを拡大して大きく成長することもある。特に、アプリ開発ではそれが起こりやすい。そのような、嬉しい期待の外れ方も実際には起こりうる。

いずれにせよ、FacebookやTwitterの周りで景気のいい話ばかりが飛び交う中で、このように実直にビジネスを回しながら、とはいえ、「返礼という支払い動機」を定着させようとする動きがあることは興味深いことだと思う。