AOLがHuffington Postを買収することが発表された。もちろん敵対的買収ではない。買収後、AOLのコンテント部門はHuffington Post Media Groupとして再編され、HuffPoの創立者であり最も目立った同社スポークスマンでもある(そして、リベラル派の急先鋒のadvocateである)Arianna Huffington女史が、そのHuffington Post Media Groupを統括することになるという。
Betting on News, AOL Is Buying The Huffington Post
【New York Times: February 7, 2011】
要するに、AOLが一種の胴元の存在にとどまり、HuffPoの下でAOLの(低迷する)コンテント部門をドラスティックに作り替える。
AOLはコンテントを何とかしないといけないとずっと言われ続けてきたわけだが(とりわけ、Time Warnerから切り離された2009年以降)、結局、自分自身ではほとんど芳しい成果を得られず、ブログ・ジャーナリズムをアメリカで確立するのに大きな役割を果たしたHuffPoが築いた資産を組み入れることで、一気にコンテント部門の最前線に飛び出そう、ということになる。
当のHuffPo自身の報道はこれ。
AOL Agrees To Acquire The Huffington Post
【Huffington Post: February 7, 2011】
Arianna Huffington自身のポストもある。
When HuffPost Met AOL: "A Merger of Visions"
【Huffington Post: February 7, 2011】
このAriannaによれば、あるカンファレンスで、AOLのトップが「AOLはブランド認知はある(要するにAOLと聞いて、うん、知ってると答える人が多い)し、利用者の信頼やロイヤリティは高い(つまり、ずっと使ってくれている)。しかし、ブランド・アイデンティがない(要するに、AOLって何?と聞かれて、即答できる何かが存在しない」)」と、冷静に自社を分析していることに感服したとある。
で、この「AOLの空白のアイデンティティ」を埋めるものとしてHuffPoが選ばれた。
これは、つまり、HuffPoの顔であるAriannaを、AOLの新しい顔にする、ということでもある。
そして、当のAriannaの方は、HuffPoが軌道に乗ってきたところで、「イノベーターのジレンマ」(クレイトン・クリステンセン)に直面していたと言っている。
クリステンセンによれば、イノベーターとして成功したはいいが、その先にはイノベーションの法則性が持つ落とし穴が待っていて、「新たな」イノベーターに自分たちの足元を救われてしまう。その危険性にAriannaはどう対処すべきか悩んでいたという。
その意味で、今回のAOLによる買収提案は、HuffPo側にとっても、新たなステージを目指して自己革新できる(というよりも、しなければならない)機会として肯定的に受け止めたようだ。
この先のポイントは、AOLがHuffPoやAriannaのもとで、つまり、リベラル支持の、その意味では極めてメッセージ性の高いアドボカシー志向の下でうまく再編できるかどうかだろう。というのも、AOLには当然、コンサバティブなユーザーもいると思うからだ。
とはいえ、Ariannaのカラーを維持するのなら、デモクラット支持のリベラル(なにしろ、今回の買収を、AOLとHuffPoにとっての「スプートニク・モメント」と言い放つぐらいのオバマ支持者なのだから)を維持しないことには、そもそも買収した意味が無いことになる。
いずれにしても、この先、どうなるのか、様子を見たい。
直感的には、この二社が合併するのは、かなり妙なことだ。かたや、AOLは、インターネット以前のパソコン通信の頃からの事業者でそれこそTime Warner買収という企業買収史上最悪のディールを行った会社だ。そして、HuffPoは、ITバブルが弾けて以後、Googleの台頭を経て本格化したWeb 2.0の時代に登場した、インターネットならではのニュース=コンテントサイトだ。
つまり、2.5世代くらい、両者の創業時のネット環境はずれている。企業買収の最初のハードルは、合併後の企業のカルチャーの調整にあるから、このギャップをどう埋めるかがAOLとHuffPoの最初の課題になる。
もっとも、Web 2.0以後は、もはやサービスレイヤーは様々なネットワークプレイヤーからは切り離れて生息可能になっている。その意味では、ジャーナリズムに特化したHuffPoはAOLの既存のビジネスとは「融合」させようもないのかもしれない。
その意味では、むしろ、HuffPoがこの後、ブログジャーナリズムの確立を通じて切り開いて来た地平をいかなる方向に向かわせるかの方が興味深い。
折しも、チュニジアやエジプトの一件で、ネットワークが実社会の変貌に一役買うことが分かり、WikeLeaksによってウェブ上の情報公開のルールやジャーナリズムのモラルについて議論が上がっている時だ。その意味では、ステージが何か変わりそうなタイミングであることは間違いないだろう。
このタイミングに、やり手のアドボカシーであるAriannaが何を仕掛けてくるのか。
2010年代の、ウェブ時代のCNNとしてグローバルリーチを果たすのか?
あるいは、直近!の2012年の大統領選挙で何をしでかすのか?
今から楽しみで仕方がない。
2005年に始まったHuffPoがアメリカのジャーナリズムの近未来を大きく変える。
しかも、その中心人物のAriannaは、彼女の癖のある英語からわかるように、国籍はアメリカではなくギリシアだ。
外国籍の人間がアメリカ内部でアメリカの未来を決める。
これが2010年代の、新しい、アメリカン・ドリームの姿なのかもしれない。