Google TVとアメリカテレビネットワーク

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October 24, 2010 17:14 jst
author
junichi ikeda

ABC、CBS、NBCの三大ネットワークは、ウェブ上のコンテントの視聴についてはGoogle TVでの視聴をブロックするとのこと。

Networks Block Web Programs From Being Viewed on Google TV
【Wall Street Journal: October 22, 2010】

当たり前の動きであるし、今までも何度も繰り返されてきたこと。

繰り返されてきたことというのは、コンピュータ産業の企業が専用の装置(ハード、ソフトとバリエーションはある)を製造し、それをテレビ受像機に接続し、通常のテレビ視聴をバイパスすること。これは単純に視聴率を下げる、あるいは、視聴分散を促す、というような予測される帰結から、三大ネットワークが簡単に飲める話ではない。

Netflix(レンタルビデオサービス)がウェブに進出しテレビ受像機で視聴可能となり、結果として、ケーブルテレビのPPV(ペイパーユーサービス)や映画ペイチャンネルの契約数が減った、という話も同時に起こっているので、視聴者の眼球(eye-balls)の占有が究極の販売物である地上波ネットワークが飲める話ではない。

興味深いのは、三大ネットワーク以外のFoxやMTVはGoogle TVをブロックしないという点。彼らが後発のネットワークであり、しかもベースが必ずしも地上波ではない、ということももちろん影響している。Foxは80年代に入ってから始まった地上波サービスで、親会社はマードックのNews Corp.。MTVは音楽専門のケーブルネットワークとして始まって、そこからエンタテインメント全般に対象を広げている。

いずれも、多チャンネル視聴が当たり前の状態で、むしろ三大ネットワークから眼球のシェアを奪おうとしたところからビジネスを始めており、視聴分散にあわせて事業領域を拡大してきた。News Corp.は衛星放送を行うことで多チャンネルサービスのプラットフォーム事業に手をつけて、眼球の向かうスクリーンそのものを確保しようとした。MTVはケーブルのチャンネル数を増やし、たとえばVh.1のような同ジャンルの音楽チャンネルも傘下にいれ、「音楽」というジャンルの眼球の占有に務めた。

だから、三大ネットワークとの対応の違いは、もともとのビジネスモデルの違いに起因するといっていい。

Googleにとってのここからの課題は、中立的な第三者の地位をやめ、自ら映像コンテントの制作に、直接的であれ間接的であれ、乗り出すかどうか、だろう。そして、一度そうした立場を取れば、Verizonと行ったモバイルビジネスの契約が起こしたような波紋を起こすのかもしれない。Googleとしては思案のしどころだ。

もっとも三大ネットワークといって眼球価値の高いプライムタイムの番組は外部制作のものが多い。だから、そうしたプロダクションがウェブの側に価値を見いだせるようになれば話はもちろん変わる・・・と言いたいところだが、話はそれほど単純でもない。

ウェブの側はウェブの側で視聴分散が原理上は極限にまで進むため、テレビのように胴元が3ないし4つの事業者に占められていることから生じる価格の安定性がない。もちろん、原理上はウェブ上にも圧倒的なシェアを占めるチャンネルを作ることは可能だろうが、その場合は、その圧倒的なシェアをもつ地位を占めるまでは事業の胴元たるプラットフォームがその間のコストを負担しなければならない。外部のプロダクションの制作費用を(持ち出しとして)負担するか、制作の内製化を図るしかない。

そのため、Googleのような「市場と企業」のせめぎ合いの中で市場側のポジションをとっていた企業はジレンマに陥ることになる。超然たるプラットフォームの立場を維持するか、それとも、ワンノブゼムの一プレイヤーとしてそのプラットフォームのフィールドに自ら臨むか、という選択を迫られる。

こうした状況を突破する道は、結局のところ、有料課金でスタートしているコンテントないしアプリケーション事業が、その成長とともにコンテントジャンルの幅と量を拡大させていく、ということにならざるを得ないわけで、その第一候補は、従来であればゲームだった。ただ、周知の通り、ゲームも、ウェブを初めとしたコンソールの多様化によって生じた分散化と定番化の二極化の中で、手放しに成長を期待できるような状況ではなくなっている。

テレビ受像機をコンピュータ化するという夢は、10数年前にマイクロソフトやソニーを中心に試みられたことだが、それら企業が直面した困難にGoogleは(そしておそらくはAppleも)ぶち当たっている、ということになる。つまりは、この業界のデッドロックにだ。

デッドロックである以上は関係者だけのせめぎ合いからだけでは解決は難しい。当該産業が抱える一種の均衡状態だからだ。裏返すと、この暗礁を乗り越えるには、外部からの衝撃、乾坤一擲の一撃が必要になる。過度に達観するつもりもないが、しかし、こうした状況が2010年代には、どのような外部衝撃によって覆されるのか、あるいは、結局のところ、変わらないのか。そうした視点から状況を引き続き眺めていきたい。