アメリカでようやく96年通信法(Telecommunications Act of 1996)の改正の動きが出てきたようだ。
Communications Law to be Reviewed
【New York Times: May 24, 2010】
発案者は連邦議会の上院・下院でそれぞれコミュニケーション産業分野を担当する委員会のリーダーである、John D. Rockefeller IV上院議員とHenry A. Waxman下院議員。それぞれ、上院のSenate Commerce, Science and Transportation Committee、下院のthe House Committee on Energy and Commerceの議長を務める。いうまでもなく二人ともデモクラット。
見直しのきっかけは、ここのところ問題になっていた、net neutralityを巡る裁判判決、ならびに、それを受けてのFCCの対応。
FCCがComcastに対してブロードバンドのトラフィックを使途別に制御するのはnet neutralityの原則にもとるという理由で変更命令を出したのだが、Comcastはそれに反論し法廷で裁判として争うことになった。この裁判は二審(連邦巡回裁判所)でComcastの勝訴となった。理由はFCCにそのような命令を行う権限はないというもの。
FCCは最高裁への上告をとりやめ、インターネット接続サービスの「分類換え(reclassification)」をして電話のようなユニバーサルサービスとして位置づけ、従って電話のように通信の内容には通信会社は関与しない、というコモンキャリアのルールを適用させること考えた。
ということで、インフラ会社(電話+ケーブル)とFCCの間でいたちごっこが始まっていた。
(以前に書いた次のブログも紹介しておきます。
FCC vs 連邦裁判所:インターネット管理の権限の所在を巡る争い
FCCルールは裁判によって覆され得る: ケーブル会社Comcastのシェア上限規制の場合
)
今回の、連邦議会の担当委員会トップの議員の動きは、まずは、今後想定されうる混乱状況を回避するために議会も腰を上げるぞ、というメッセージだと思う。もともとFCCの動きも、オバマのホワイトハウスと連邦議会から発案されたNational Broadband Planという、全米にブロードバンドを整備しようという政策に呼応して始められていた。
もっとも、実際の法案審議は11月の中間選挙以後ということになるだろうから、今、この話題が出るというのは、通信法の改正、をデモクラット側は選挙の争点の一つとして登録したいと考えているのかもしれない。この話を真っ先に伝えているのが、親デモクラットのNYTというのも、そういう一種の選挙対策案件と思わせる理由の一つでもある。
96年通信法については、インターネットが本格普及する前の世界=市場認識に従って立法されていたため、随分前から改正の必要は語られてきていた。実際に手を加えるとなればnet neutralityをはじめとして、インターネットないしブロードバンドの根幹を定めるルールになるだろうし、そのルールの上でアプリケーション開発を担うソフトウェア会社やウェブ会社の経営環境にも大きな影響を与える。つまり、「プラットフォームとしてのウェブ」が大々的に法の下に位置づけられるかどうか、という、アメリカに限らず世界中のウェブ産業にも余波を与えずにはいられないルール・メイキングになると見込まれる。
選挙対策としての観測気球かどうか、というところも含めて、続報に注意していきたい。