Appleでのマーケティングの経験を出発点にして、シリコンバレーのガジェットのマーケティングについて多くの発言をしてきた、ガイ・カワサキがNYTのインタビューを受けている。
Just Give Him 5 Sentences, Not ‘War and Peace’
【New York Times: March 19, 2010】
驚いたのはカワサキが宝石商に勤めていて、そこでマーケティングの要諦を学んだというところ。けれどもインタビューの続きを読んでいくと、とても理に適っていることがわかる。
カワサキが宝石商で学んだことはhow to sell(販売方法)で、そこからビジネスの要はsalesだと確信を得るに至ったという。
販売が継続している限り、そのビジネスゲームに止まり続けることができる。つまり、消費者が商品を買い続けてくれる状況が確保されていればいいということ。これは要するに、営業活動が回っていて、とにかくキャッシュフローが流入し続けることが大事ということ。
当たり前のことのように聞こえるが、大企業になり扱い品目が増えていくにしたがって個々の商品をそのようなシンプルな見方で管理することは難しくなっていく。とりわけ、耐久消費財メーカーの場合は継続的な技術開発が必要で適宜それらを戦略的商品として位置づけなければならず、ビジネスとして止まれるだけのキャッシュインが見込まれるまでは我慢の時代が続くし、全ての商品で全戦全勝というわけにもいかない。Sales担当の人間は確率的にババをつかまらされるリスクを負う。そのため、シンプルにsalesが大事と確信するには相応の経験、とりわけ成功体験が必要になる。これは成熟社会といわれる今日では、そこが日本であるかアメリカであるかを問わず、なかなか実感することの困難な経験になってきている。
そこで、カワサキのように、自らの経営者体験の原点にsalesがある、という発言はそれなりの重さをもって響いてくる。
そして、Druckerを好んで読んだというカワサキが言うことは、さすがにDrucker的。
たとえば、カワサキによれば、よい経営者は自分よりも優秀な人材を雇う、という。逆に、ダメな経営者ほど、自分の地位を確保するべく、自分よりも劣った人材を雇ってしまうと。
あるいは、カワサキが彼のスタッフに伝える、「世界をもっとよい場所にするためにビジネスを行う」というのもシンプル。これはApple時代にSteve Jobsの「世界を変える」という発言からも学んだことのようだ。
ただし、ビジネスコミュニケーションは簡潔であることが大事で、そうしたコミュニケーション能力こそをビジネススクールでは教えるべきだと釘を刺すことも忘れない。日々のビジネスメールで、世界の平和を訴えられても困るからだ、という。
また、学生は次の三つから最低限一つは知識をきちんと持つようにして欲しいと述べている。
作る(make)こと、
売る(sell)こと、
支援(support)すること、
宝石商でビジネスにはいかに信用が大事なことか体で学び、DruckerとJobsの薫陶を受けたカワサキらしい指摘ということになる。