昨日のエントリーで紹介したHillary Clinton国務長官による“Internet Freedom”スピーチに対して、中国側が反応している。
China Hits Back at Clinton on Net Freedom
【Wall StreetJournal: January 22, 2010】
China Rebuffs Clinton on Internet Warning
【New York Times: January 22, 2010】
基本的には、スピーチの中で中国について触れられた部分は事実無根であり、このままではG2ともいわれる米中関係に影響を与える、としている。中国の外務当局からの反応(反論)であり、これで、本件は、両国から外交問題として扱うことが了解されたことになる。
Googleはgoogle.cnを運営していく上で中国政府が示したガイドラインに沿って検索結果にフィルタリングをかけていた。これがcensorship(検閲)と呼ばれている部分。公平のために記せば、「検閲」という言葉を使うとものものしいが、たとえば、公序良俗という基準から表現の程度に基準を設けるのは、社会政策の一環としてどこの国でも行われている。たとえば、青少年への影響を考えて、というのはアメリカでも日本でも行われている。政府が直接介入せずとも、事業者の方で内規を設定するということもある。
今回の話が微妙なのは、だから、状況としては単純に、「Googleという一企業が国外で営業活動している国(この場合は中国)から課せられる基準が、社内基準から見たとき、承伏しかねるので、営業活動をとりやめようと考えている」ということに過ぎない。
話が複雑になったのは、この意向にあわせて、ハッキングのことをセットで伝えたことと、当該市場からの撤退が当該国の利用者に取って生活レベルでもそれなりの不都合が生じてしまうこと。
前のエントリーでは、だから、ポイントは、ハッキングからのprivacyの保護であり、それは、Gmailシステムのその一部であるCloud Computingを進めていく上で必須案件である「個人情報の秘匿性の確保」というところにあると指摘した。
これと同じような考えをしめしているのが、次のコラム。
China, Google and the Cloud Wars
【Wall StreetJournal: January 22, 2010】
だから、こうしたCloudにまつわる経済的利得の話が全面に出ないようにするために、主題が、Freedom、に変えられた、と見ることもできると思う。実際には、Freedomという抽象概念で常に検討を続けていくチャネルを確保しながら、私企業の具体的な活動のためのガイドラインは、適宜用意されていく、という現実的な解決が図られていくのではないか。
たとえば、Googleの撤退可能性によって、件のAndroid Phoneを中国市場でどう扱うか、という問題既に生じているわけだが、(IBMのPC部門を引き継いだ)PCメーカー大手のLenovoは、Android Phoneの発売を計画通りに進められると考え、待機状態にあるという。
Lenovo Stands By Google Android Phone
【Wall StreetJournal: January 22, 2010】
この記事は香港からのものなので、中華圏(Greater China)も一枚岩ではないということを表しているだけなのかもしれないが、しかし、ビジネスの場合は、それがビジネスであればこそ、破綻、という極端な事態を選択するには至らないと思っている。ビジネスの現場は粘り強いというのが実感なので。
一歩引いた視点で見れば、今回の件は、米中の外交問題にまで発展したという事実に至ることで、
「インターネット上の情報は、それが銀行においてお金を扱うのと同じくらい、関係者も政府も神経を使っているのだ、だから、皆さん、安心してください、私たちを信頼して下さい」
というメッセージを改めて世界に伝えるためのものだったのではないかとすら思えてくる。
つまり、「信頼」の確保が、金融業同様、インターネット上の情報・コミュニケーション事業では不可欠であることを、世界中のユーザー=普通の人びとに知らせ、その「信頼」の調達のために関係者は鋭意努力している、ということを周知させるためのものだったのではないか、と思える。
裏返せば、今回の案件が首尾よく一定の妥結点に至った後は、むしろ、1980年以後の金融業並みに、世界中で情報の流通が加速度的には早くなるような事態が現出するのかもしれない。
だから、後から振り返れば、今回の一件は、世界的なCloud時代の幕開けに至った陣痛のようなものだったと位置づけられるのかもしれない。
いずれにせよ、本件は今後も気にかけていくつもり。