GoogleがCommunications Chiefに、Jill Hazelbakerを起用することを決定した。
Google Hires Corporate-Communications Chief
【Wall Street Journal: January 11, 2010】
Hazelbakerは、著名なPolitical Campaign Specialist。基本的にはGOPの政治家のコンサルタントとして活躍してきた。直近では、先日選挙戦に勝利し三期目に臨むNew York Mayor(市長)のMichael Bloombergのスタッフを務めた。その前は、2008年大統領選でObamaに挑んだGOPのJohn McCain(現上院議員)のCommunications Director を務めた。
Hazelbakerの採用で気になることは:
第一に、彼女がGOP支援者であること。
Googleは、Eric SchmidtがObamaのアドバイザーであることから、一般的にはデモクラット寄りと目されるわけだが、Hazelbakerの採用によって、GOPとの間にバランスを取ろうとしているのかもしれない。
第二に、彼女がMcCainに近しいブレインの一人であったこと。
Googleは先日のNexus Oneの発表に見られるように、アメリカのテレコム業界に波紋を投げかけている。Googleの行動の常として、「とりあえず始めてしまってから、後で帳尻を合わせる」振る舞いをする。このことを考えると、McCainがテレコム産業と深い関係があることがHazelbaker採用の背後にあるかもしれない。VerizonやAT&Tのようなテレコムの大企業と具体的な議論・交渉をしていく上で、Hazelbakerの人的ネットワークが役に立つのかもしれない。
いずれにしても、選挙キャンペーンを取り仕切ってきた人物が私企業のCommunications Chiefを務める、という動きは注目しておいていいと思う。
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Communications DirectorやCommunications Chiefというのは、あえて日本で当てはめれば広報部門トップということになると思うが、アメリカの企業実務としてのCommunications と日本企業における「広報」には大きな隔たりがあるのが実情。
と言うのも、アメリカの場合、企業におけるCommunicationsが単なる企業イメージだけでなく、その企業の政治的立場や法的立場を明確にする役目を担っていること。だから、渉外業務のような機能も含むことになる。
今回のGoogleの場合であれば、反トラスト法違反の嫌疑やプライバシーの問題、あるいは、諸外国での訴訟、など、政治や法務に関わる案件に取り囲まれている。いずれも、public affairsとして、政治家や法律実務家、彼らの支援者らの認識や判断が、現実的な係争処理の場面において大きく影響を及ぼす。そうした判断の土台である「認識」や、そのための「認識枠組」をどういう方向にもっていくかが、Communications Directorらの主要な関心であり役割になる。
また、アメリカの場合、マスメディアを通じて様々な議論が実際に交わされるため、論理武装やそのためのリソースを持っていない企業は劣勢に立たされることが多い。その点で、Communications Directorには、メディアの扱いという「腕力」だけでなく、議論や言説の矛先を見通したり、時には水路づけるための戦略を展開する必要に迫られる。つまり、知性・知識といった「脳力」も要求される。
そのため、今回のHazelbakerのケースのように、スタッフとして、私企業と政府関係者の間を水平的に移動することも生じうることになる。
いずれにせよ、Hazelbaker着任後のGoogleのCommunications Strategyには注目していきたい。