デザインファームであるIDEOの方法論をWIRED.UKが紹介している。
Reinventing British manners the Post-It way
【WIRED.UK: November 3, 2009】
IDEOの方法論、正確にはIDEOのCEOであるTim Brownが提唱している方法論がDesign Thinking。
デザインを範にとって問題解決に迫るのがDesign Thinkingで、それは、四つのステップからなる。すなわち、
Immersion
Synthesis
Ideation
Prototyping
の四段階。それぞれについてもう少し説明すると:
Immersion=浸透、の段階では、依頼されたデザイン対象のコンテキストを理解・感得するために、その場に居合わせる、使う、など、ユーザーレベルの経験に至るこまで現場に「没入」する。一種のフィールドワークの実践。あるいは、エスノメソドロジー的手法ともいえる。
Synthesis=統合、の段階では、Immersionを行った複数のIDEOのスタッフが集まり、Immersionの過程で発見したことを開陳し合い、検討対象の傾向性、パタンを明らかにしていく。
Ideation=アイデア化(観念化)、の段階では、Synthesisの結果明らかにされた、本質的な課題に対して問題解決策を目指したブレストを行う。
Prototyping=試作、の段階では、解決策を具体化する。商品であればデザインされたモックアップを実際に作るところ。商品ではなくもっと抽象的な問題の場合は、その解決策の善し悪しを判断できるようなプレゼンテーション素材を用意する。たとえば、ビデオなど。
以上の四段階。
Tim Brownによれば、Design Thinkingでは、Designerが問題解決の最初期からプロジェクトに関わり、都度、デザイン的な指摘を行っていく。
また、こうやって、Design Thinkingとしてフレーム化することで、集団作業においても、全体としてデザイナーのように発想できるという。
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この記事を読んだ後、Tim Brownの近著である“Change by Design”も目を通した。
Design Thinkingの方法論は、ものを考えたことのある人ならごく当たり前のものにすぎない。少し前なら、建築家がよくこういうことを言っていたし、広告会社あたりでもほとんど当たり前のこと。
もちろん、当たり前のことだからといって、だれもが実践できるわけでないのも事実。
そういう意味では、デザイナーの方が、実践数が豊富な分、こうした方法論が自然な振る舞いになるくらい修練を積んでいる、だから、頼りがいがある、ということなのかもしれない。
少なくとも、IDEOのデザイナーに関しては、Design Thinkingが習い性になっている、ということなのだろう。
おそらく、情報技術の進展や、素材の加工技術の高度化もあって、一般的にデザインの自由度が上がっている分、具体的な形状やイメージに落とし込むための「制約条件」を自らの意志で選択しなければならない場面が増えていることも影響しているのだと思う。つまり、制約条件を自ら課すために、捨てる要素、残す要素、といった優先順位をつけねばならないから。
もう一つ理由として考えられるのは、低成長時代に顕著な、ユーザー・オリエンテッドなマーケティングを考える際、そのユーザー志向を体現するものがまさに商品のデザイン、サービスのイメージ、であるからだろう。
裏返すと、デザイナーぐらいしか自由度の高い中で総合的に物事を考えることができる職業がなくなってきた、ということなのかもしれない。本来ならば、少なくとも、建築家やエンジニアは、デザイナーと同種の発想で目の前の課題解決に当たっていたはずなのだが、巨大な組織の中で作業を行うようになって、「分割して統治せよ」というフレームの中に埋没してしまったともいえるのかもしれない。
このあたりは、もう少し具体例を見つけながら、考えてみたいところだ。