Amazon流のユーザー志向の経営方針で成功を目指すHulu

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November 13, 2009 17:51 jst
author
junichi ikeda

HuluのCEOであるJason Kilarの紹介を通じて、Huluの成功要因と将来性について触れた記事。

Can Hulu Save Traditional TV?
【Fast Company: December 1, 2009】

Huluは、NBC Universal (NBCの親会社)とNews Corp.(Foxの親会社)がJVとして始めたビデオサイトで、後に、Walt Disney(ABCの親会社)も資本参加した。

テレビ局が主導したビデオサイトとして開始前から注目を集め、実際にサービスを開始すると好調に加入者数を伸ばし、既に有力なビデオサイトの一角を占めるようになった。記事にあるように、この7月の時点で登録者数は3800万人、ビデオの配信数ではYouTubeに次ぐ。

こう説明すると、それは、NBCやFoxの戦略があってのこととまずは思うのだが、実は、そんなことではなかった、今のHuluをデザインしたのは、新参者のJason Kilarだったのだ。これが上の記事のテーマ。

Jason Kilarが、NBCやFoxが当初考えていたビジネスプランをゼロベースで作り直して、立ち上げたのがHulu。つまり、Huluは、なかばKilarのスタータップであり、そこに資本を提供したのがNBCとFoxだったと捉える方が適切だということ。

では、Kilarのコアアイデアはなんだったのか。

それは「Huluをビデオ版のAmazonにする」ということだった。
「Amazon流」の経営が、Huluを形作ったことになる。

その「Amazon流」というのは、

ユーザー志向の、テクノロジー・カンパニーを目指す、

ということ。

*

メディア・カンパニーではなく、テクノロジー・カンパニーとして位置づけたところが肝。

というか、テクノロジー・カンパニーとして定義しないことには、「ユーザー志向」を満たすことができない、というのが、KilarがAmazonでDVD販売事業を経験しての結論だったようだ。

Kilarが、Huluの前進であるNew Co.(NBCUとFoxのJVとして当初こう呼ばれていた)にCEOとして引き抜かれてから最初に行ったことは、とにかくNew Co.が考えていた計画をほぼご破算にし、テクノロジーの開発に必要な若い技術者を集めたこと。

そこで最初に開発したのが、ビデオのサーチプログラム。

それによって、Kilarは、ユーザーから見たときAmazonが本の情報のエキスパートであるのと同じように、Huluをビデオの情報のエキスパートにしようとした。

記事中、エピソードとしてあるように、このサーチプログラム対しては、Huluを視察に来た親会社のエグゼクティブが初見で難色を示した。というのも、そこでは、NBCやFoxのビデオだけでなく、ウェブ上のビデオの全てが対象になっていたから。その様子を見て、件のエグゼクティブたちは、どうして、競合する映像まで検索対象に加えるのか、と疑問に思ったようだ。

一方、Amazonを経由したKilarからすれば、ユーザー本意とはそういうものだと思っていたようだ。

多分、このあたりが、メディア企業とIT企業の視点の違いが最も明瞭に現れているところだと思う。

つまり、Kilarたちが「利用者の代弁者」の立場に立っていたのに対して、NBCらのエグゼクティブは「提供者のロジック」に囚われていた。

User-oriented、あるいは、Customer-orientedというのは、Silicon Valleyのスタータップであれば常識中の常識で、今日では数多あるマーケティングの教科書でも強調されている。それにもかかわらず、伝統的なメディア企業のマネージャーたちは、その実践に躊躇していたわけだ。

Kilarの構想としては、ウェブ上でビデオを見ようと思ったときに、最初に想起されるいくつかのサイトとしてHuluがユーザーに認知されることが大事で、そのためには、彼らユーザーの初発の動機・関心になる、「なんか、面白いビデオでもないかな・・・」という意図に対して、とりあえず全て応えてくれるようなサイトを目指す、ということだったのだろう。

その結果、Huluで満たせればラッキー。Huluで満たせずに他のサイトに流れてしまったとしても、ユーザーの意向の痕跡は残されていく。そうした、ユーザーの意向の流れの中に、Huluを位置づけることが大事と考えたのだと思う。

結果としてHuluが順調な利用者数の伸びを示しているのも、このKilarの読みがあたった、ということになるだろう。

もちろん、この他にも、ユーザー志向の仕組みはいろいろと仕込まれている。

Huluは無料サイトで、そのコストは基本的に広告収入でまかなわれているわけだが、その広告の露出についても、一つのビデオに対して一つの広告主というように、無料視聴が眼前の広告を出している一社によって支えられているという「サポート感」を醸し出したり、その一社の広告を事前に三社からユーザー自身に選ばせたりすることで、ユーザー自身に視聴を納得させる手はずをと問えていたりする。さらに、そうして見せられた広告の評価をフィードバックさせる仕組みもある。

*

Amazonを利用したことがある人ならわかるように、こうした仕組みは、とてもAmazonっぽい。

あくまでも、ユーザーの利便性を重視する。

リアル店舗なら、セレクトショップのような、シチュエーション・オリエンテッドな品揃え感を、ウェブ上では、サーチなどのプログラム=テクノロジーを活用することで提供する。

ユーザーの利便性重視というのは、標語的に言えば、一種の流通業者、小売になるということで、そのためには、テクノロジーが必要になる。

それは、裏返せば、対象となる商品の製造には、直接的に関わらない、ということでもある。

このあたりは、NBCにせよFoxにせよ、地上波テレビに向けて番組を用意したり、あるいは、系列のハリウッドメジャー(パラマウントや20世紀フォックス)製作の映画があったり、という具合に、対象商品がウェブの外側で、つまり、Huluの外部で、生産され供給される体制があればこそ成立するものではある。

だから、この先、ブロードバンドの浸透によって、テレビ番組や映画の製作本数が減ったり、クオリティが下がったり、というような事態が生じた場合には、Huluのあり方も変わることになる。

ちょうど、ケーブルが登場したとき、当初は地上波テレビ番組や映画の再放送が中心だったのが、普及が進むにつれて、オリジナルの番組が増えていき、最近では、むしろ、ケーブルオリジナルの番組がエミー賞を受賞するほどにまでなった。それと同じような動きが、今後、Huluでも起こるということだと思う。

他のウェブサービス同様、有料化や世界化、の動きも当然出てくることだろう。

(そういう意味で、NBCUがComcast傘下になるディールは、ケーブルがウェブに出て行くための一里塚として捉えることができると思う)。

Kilarを発見できたNBCUとFoxは、やはり、ラッキーだったわけだ。

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最後に、Kilarの経歴を確認しておく。それには、彼自ら自分の経歴を語っている次の記事が参考になる。

Flip-Flops at Work? Fine
【New York Times: August 16, 2009】

UNC(ノースカロライナ大学)を卒業後、Disneyに務め、その後HBS(ハーバードビジネススクール)でMBAを取得し、Amazonに入社。Amazonに入ったのは、HBSに講演に来たJeff Bezosの人柄や経営思想に惹かれてのことという。Amazonでは、DVD事業を担当し、成功を納める。

UNC卒業Disneyに務めていたことからわかるように、もともとメディアやエンタメに関心があったようで、UNCの時には、メディア、ジャーナリズム、ビジネス、を専攻していたという。

(ちなみに、UNCは、UCバークレーやミシガン大学同様、全米の州立大学ランキングでは必ず上位にランクされる、南部の名門大学。こちらも全米有数の私立大学であるデューク大学とともに、ノースカロライナ州のハイテクトライアングルを構成する。このハイテクトライアングルには、ワシントンDCに比較的近いこともあって、連邦政府機関や民間企業の研究施設が多数集まっている。「つくば」や「けいはんな」のような地域)。

Kilar自身、メディア好きの消費者であり利用者であったことが、Amazonの経験を経ることで、「利用者の意向を満たす」部分に、多くのビジネスの可能性を見いだすことができたといえそうだ。

Kilarによる、今後のHuluの経営に注目したい。