San FranciscoでのNon-profit型Local News Siteの試み

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September 25, 2009 20:29 jst
author
junichi ikeda

地元紙であるSan Francisco Chronicleが経営難に直面している中、non-profitの形態で地域ニュースを扱うサイトを新たに立ち上げようとする、San Franciscoのプロジェクトを紹介する記事。

In San Francisco, Plans to Start News Web Site
【New York Times: September 25, 2009】

投資家でもあるF. Warren Hellman氏が資金(500万ドル)を用意し、PBS加盟の地元ラジオ局であるKQED-FMと、これもまた地元であるUC Berkeley Journalism Schoolが実際のオペレーション部分を担う形で進められる。

取材活動の中心は、新聞が経営効率化のために手を引かざるを得ない(要するに儲からない)分野で、主に、調査報道(investigative reporting)、芸術活動、地元情報、となるようだ。

サイトの立ち上げは来年早々を計画している。地元情報の取材、吸い上げに集中し、その取材記事を、現在、San Francisco版の発行を検討中のNew York Timesにも配信する計画もあるようだ(実現すれば配信料収入が期待できる)。

記事でも指摘されているように、こうしたnon-profitで運営されるサイトの先行事例には、the Center for Public IntegrityやProPublicaが挙げられる。

(NYTの他にWall Street JournalもSan Francisco版を発行する計画がある。次の記事が参考になる。

The Wall Street Journal and The New York Times Plan San Francisco Editions
【Wall Street Journal: September 5, 2009】

計画自体は、Warren Hellman氏がSan Francisco Chronicleの救済策を練ろうとして開催していた会合の中で、事の本質が、San Francisco Chronicleの救済よりも、Bay Area のlocal journalismの再興の方にあると考え、より直接的な方法として、今回のnon-profit local news siteの立ち上げ計画に至ったようだ。同じタイミングで、UC Berkeleyでも、同種の試みを自発的に行おうとしていて、二つの計画が統合されたという。

KQEDはPBS加盟局で、ラジオだけでなくテレビの放送も行っている。カリフォルニアとSan Franciscoに根ざした情報を放送していてBay Areaの生活に密着している。今回、プロジェクトに参画するのはそうした背景からだと思われる。記事中は触れられていないが、調べてみるとWarren Hellman氏はKQEDのボードメンバーの一人でもあるので、彼が中心になってプロジェクトを進めているのだろう。

つまり、初期費用は、Warren Hellman氏が個人でGrant(寄付金)として提供し、オペレーションの部分は、既に日常取材活動をしているKQEDを核にして、BerkeleyのJournalism Schoolの学生が半ばボランティア的に、あるいは、インターンの一環として運営に携わることになる。

結果的には、前のエントリーで紹介したように、PBSを核にしてlocal journalismの新しい形が模索されているわけだ。記事でも触れられているように、ChicagoやSan Diego、
Seattleのように、同じような地元紙の経営危機にさらされている都市に対して、一つの解決策を提供する試みになると思われる。

既存のlocal journalismの担い手の資源(取材力、情報力、ネットワーク力など)を核にしながら、地元の名士による寄付金と、地元の人びとの参画によって、経営危機に瀕した新聞が切り捨てた部分のjournalism業務を担っていく。

これも前に触れたが、ワシントンDCの連邦議会では、新聞社を従来のfor-profitからnon-profitの会社に変えることで、local journalismの担い手として存続可能な状態にするための法案が検討されている。

この法案に対して、オバマ大統領も基本的には支持の立場を表明している。

Bailout for Newspapers? Not So Fast
【AdAge.com: September 21, 2009】

ただ、non-profitにしたときの制限として、新聞社が選挙時に候補者の後押し(endorsement)ができなくなる条件がだされていて、この条件をのむことで、政治家に対する圧力が減ってしまい、journalismではなく、単なる提灯持ちのような記事を報道することになってしまわないかと、新聞社側の方では危惧しており、法案の実現が、当の救済対象者からも疑問視されている。つまり、新聞社側からすれば、政治家に「飼い慣らされてしまう」瀬戸際にあるという認識のようだ。

その意味で、今回のBay Areaの試みは、民間主導で、既存新聞社が取りこぼしてしまう部分をフォローすることになるため、新聞社の救済はさておき、journalismの救済になる一手といえる。

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このプロジェクトの中心人物と目されるWarren Hellman氏は、今のカリフォルニアの基礎を作った人物といわれる、I. W. Hellman氏の末裔。つまり、カリフォルニアの名家中の名家の一人。Warren Hellman氏自身は、PEファームのHellman & Friedmanを経営していて、Double ClickやNielsenに投資をしている。

I. W. Hellman氏は、ゴールドラッシュ直後のカリフォルニアにババリアからやってきた、移民のユダヤ人。東部と違ってユダヤ人に対する制約が少なかった土地であったこともあり、実業家として財をなし、最終的にはWells Fargoのトップを務める。I. W. Hellman氏は、この他に、USC(南カリフォルニア大学)を創立し、カリフォルニア大学システムのボードにも加わっていた、文字通りの名士。

つまり、今回のプロジェクトは、地元の名望家であるHellman Familyが、地元の政治、経済、文化のために、一肌脱いだことになる。

それにしても、San Franciscoという街は、ことオンラインによる事業化については本当に様々な試みがなされるところだ。しかも、新聞の直接的救済ではなく、新聞が担ってきた機能をオンラインで代替する、というところが、とてもSan Francisco的だと思う。こうしたところに、東部との違いをとても感じてしまう。

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追記:

プロジェクトのオフィシャルサイト: BayArea News Project

なお、Hellman氏のgrantは、手続き的には、the Hellman Family Foundationから拠出されるようだ。