Digital Bookを喫緊のWorld Public Issueに変貌させたGoogle Book Settlement

latest update
September 09, 2009 20:10 jst
author
junichi ikeda

裁判所への一般からの意見募集がようやく締め切られたGoogle Book Settlement。その現時点の概況を伝えた記事。

11th-Hour Filings Oppose Google’s Book Settlement
【New York Times: September 9, 2009】

土壇場になって、ACLUやEEFからreaders’ privacy(読者のプライバシー問題)に関する懸念を表明する意見も提出されている。

EFF, ACLU says Google Books will chill reading, speech
【ZDnet: September 8, 2009】

このように、もはやGoogle Book Settlementは、単なるDigital Bookに関する議論を越えて、Digital Copyright Law一般、さらにはより広くCyber Lawの領野にまで拡がる議論へと転じてしまっている。

アメリカ連邦議会下院(House)や、EUの法執行部門であるEuropean Commissionも動き始めており、むしろ、Google Book Settlementの議論は、今後、Cyber Law 全般の調整をアメリカとEUの間で行うための政治日程の「契機」として位置づけられてしまったと考えて構わないと思う。

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とりあえず、状況を整理しておく。

● Google Book Settlementの検討

裁判所: the Federal District Court for the Southern District of New York
裁判官: Denny Chin (香港生まれ、中国系)

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● Google Book Settlementについて

この和解案に関わるのは次の三者:
・ Google
・ Authors’ Guild (以下AG)
・ Association of American Publishers (以下AAP)

和解案の主な内容は:
・ Googleが1億2500万ドルをAGとAAPに支払うことで、Googleがインターネットユーザーに対して“Orphan books(copyright保護期間にあるがcopyright所有者が不明な本)”のアクセス権を提供することを認める。
・ デジタル化された本については、登録機関としてBooks Rights Registryを創設する。
・ デジタル本のフルアクセスに対する売上は、Google、AG、APP、の三者で分ける

Google Book Settlementへの主な賛同者は

・ Sony
Amazon のKindleの競合するBook ReaderにGoogle Bookのデジタルデータを利用するため

・ the National Federation of the Blind
視力に問題のある人たちにとっては僥倖という判断
(インターフェースとして「点字」や「音声」を利用するのが容易になるため)

この他にもcivil right groupsから賛同者がある模様。

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● Google Book Settlementへの反対・疑念など

Googleがdigital bookの独占権を事実上握ってしまうということを懸念して、法的な妨害を含めて反対を表明しているのが:

・ Amazon (Kindleの競合という意識)
・ Microsoft
・ Yahoo!
・ Open Book Alliance (上の企業らも参加)
・ New York Library Association
・ the American Association of Journalists and Authors
・ the Science Fiction and Fantasy Writers of America

(最後の二団体は、それぞれ、ノンフィクション、SF・ファンタジー、の作家団体で、これらは端的に、いわゆる一般の書籍とは、読まれ方、買われ方が微妙に異なることを反映しての反対と思われる)。

読者のプライバシー保護の観点から反対意見を表明しているのが:

・ ACLU
・ EFF

以上は、いわば当事者ないし当事者に近い立場からの意見表明で、その意味でいずれも私人、民間の立場からの意見表明。

この他に、政府からの懸念もある。

反トラスト法の観点から懸念を表明しているのが:

・ 司法省反トラスト局 (Dep. Of Justice, Anti-trust Division)
・ 欧州委員会 競争政策担当当局

司法省反トラスト局は9月18日までに彼らの意見を裁判所に提出予定。
欧州委員会は、今週末、ヒアリングを実施予定。

さらに、アメリカ連邦議会下院は、上述のように本件がpublic issueとしても関心の高い案件であるという認識から、今週木曜に、Judicial Committeeでヒアリングを行う予定。ACLUのようなactivist groupsが賛成・反対の意見表明をしていることから、おそらくはこうした団体から下院に働きかけがあったと想像される。

法律の専門家からは、class action (集団訴訟)の和解案にすぎないものが、その和解当事者らの社会経済的位置づけから、一種のデファクトスタンダードを生み出す効力があることを心配し、何らかの立法措置を通じて、和解案の効力について予め制限をつけておくことが重要だという意見を持っている人もいるようだ。早期の立法措置が必要と判断されるのは、和解案が和解案の範囲を超えて関係者の今後の行動に影響を与えてしまうことを見越してのこと。

同様に、和解案のデファクトスタンダード化の「効果」に注目して、反対を表明しているのが、フランスとドイツ。この和解案が、実質的に、世界で利用されるDigital Copyright Lawのひな形になってしまうことを懸念している。

連邦議会下院がプレーヤーの一人として登場してきているのも、和解案の議論の先に、EUとの条約締結、という事態もありうると見越してのことだろうし、その場合、デファクトを取った方がなにかとその後の交渉で有利だということも含めて、動き始めているように思う。

ということで、争点をまとめると

・ competition
・ authors’ rights
・ readers’ privacy

ということになる。いずれも、public interestを含む、その意味で、公共の議論が必要なものばかりだ。

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ということで、この和解案の検討については、その検討を行う場所が連邦裁判所の一審に過ぎないDistrict Courtであるにも関わらず、多大な関心を集めてしまっている。

なかでも、検討を行うJudge Denny Chinへの注目は高い。識者の見込みによれば、彼がこの和解案を全否定することは考えにくく、10月7日に開催されるヒアリングの結果を踏まえて、和解案に修正を迫る、というのが大方の予想のようだ。

となれば、既に多くの関係者・関係団体が意見の提出をしている以上、その次には、彼らが原告となって新たな裁判が起こされる可能性もあるし、司法省が当事者として裁判を起こす可能性もある。連邦議会については、現在、オバマ政権最大の懸案事項であるヘルスケア法案や、その議論によって審議が遅れている環境関連法案の審議が終われば、審議開始ということもあるだろうが、具体的には、次の中間選挙を終えてから、ということになるかもしれない。

いずれにしても、Google Book Settlementについては、単なるdigital bookの可能性だけでなく、Copyright LawやCyber Lawの将来像に影響を与えそうなこと、そして、アメリカ国内にとどまらずまずはEUにも影響を与えそうなこと、こうした点から注目していくことが大切だと思う。

とはいえ、ACLUやEFFまで出張ってくると、俄然、面白くなってきた、と感じるのは、いささか野次馬的すぎるだろうか。とにかく、10月7日のX-dayを興味津々で迎えたいと思う。