FCCルールは裁判によって覆され得る: ケーブル会社Comcastのシェア上限規制の場合

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August 29, 2009 09:12 jst
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junichi ikeda

タイトルの通り、FCCが定めたルールであっても裁判を通じて否定されることがある、という事例の紹介。

アメリカ最大のケーブル会社であるComcastとFCCの間で争われていた「シェアの上限をケーブル市場契約者数の30%と定めたFCCのルールは無効であるかどうか」という裁判だが、DC地区の控訴裁判所(控訴審なので二審)によって「ルールは無効である」という判決が示された。

Court Lifts FCC Limits on Cable Companies
【Wall Street Journal: August 29, 2009】

Court Rejects F.C.C. Cap on Cable Market Share
【New York Times: August 28, 2009】

Court Strikes Rule Limiting Cable Companies' Market Share
【Washington Post: August 28, 2009】

控訴審によれば、ルールで示されている根拠は“arbitrary and capricious(恣意的できまぐれ)”であると判断されている。それは、Comcastの営業地域(たいていの場合は地域政府によるフランチャイズを得ているため、事実上の地域独占が行われている)でも、衛星放送(DirecTVとDish Network)によって、ケーブル会社と同様の多チャンネルサービスが提供されるため、必ずしもサービスの独占が成立しているわけではない、と考えられるからだという。

問題となったFCCルールは1993年に定められたもの。ケーブル会社に対して再規制を入れようとして、1992年に連邦議会が定めたCable Act(ケーブル法)に則って導入されたルール。80年代に規制緩和されて一気に全米での普及が進んだケーブル会社が、フランチャイズ制という地域独占性を梃子にして、不当に高い価格を利用者に押しつけているという批判に対して、連邦議会が立法措置で応えたもの。

当時は衛星放送がなかったので、ケーブル会社のみが多チャンネルサービスの唯一のプラットフォームであったわけだが、その後、類似のサービスとして衛星放送が登場した。2000年代になってからは、インターネット(ブロードバンド)の配信や、通信会社(AT&TやVerizon)によるIPTVサービスも登場し、ケーブル会社のみが「ビデオ配信市場」を独占できるような競争環境ではなくなっていた。

今回の控訴裁の判決では、こうした環境変化が考慮された。

当該ルールを問題にした裁判自体は2001年に一度起こされていたのだが、その時は裁判所は審理せずに、FCCにルール自体を見直しを命じた。その後6年間FCCで検討されたのが、ルールの内容が変わらなかったため、Comcastが裁判に訴えていた。

今回の判決の影響としては、たとえば次のようなことが見込まれる。

第一に、来年FCCで予定されている、Media Ownership Rule の見直しへの影響は必至であること。

第二に、メディア企業のの独占を「表現の自由に対する圧迫である」としてよしとしないadvocacy organization(記事中のMedia Access Projectなど)が、FCCに働きかけ、最高裁に上告するかどうか。FCCが最高裁への上告を見送った場合は、Media Access Projectは連邦議会への立法措置を求める可能性もある。その場合、単に「メディア企業所有規制」にとどまらず、より大きな「情報通信関連法」の検討へと拡大する可能性もある。

このように今後の動きは流動的だが、さしあたって、今回の判決は、アメリカのメディア・コミュニケーション産業に対す規制・制度作りは、一枚岩では行かないことを理解する事例としてはいい事例だと思う。