FCC、本格稼働へ: ブロードバンドとワイヤレスから着手

latest update
August 22, 2009 18:55 jst
author
junichi ikeda

FCCがようやく本格稼働を始めたようだ。

まずは、懸案の「ブロードバンドの全米配備」については、まず、目指すべき「ブロードバンドが何か」、について検討をすることからスタートする。

Regulators Seek to Define 'Broadband'
【Wall Street Journal: August 20, 2009】

一見迂遠に見える作業のように思えるが、これは、目的と手段の両方で、2009年現在のオプションと方向性を考慮してからプランニングをしよう、ということの表れだと思う。

たとえば、記事中にあるように、単純に、ブロードバンドの速度だけを捉えれば、アメリカは日本や韓国の大体10分の1程度の速度のサービスを享受しているに過ぎない(100Mbpsに対して10Mbps)。単純にこの速度のギャップを埋めることにするならば、その手段として、例えば日本のように光ファイバの敷設に力を入れるのか、それとも、先日公式には終了した地上波デジタル放送への移行を機に、以前のアナログ波の部分の帯域を利用して、無線でも対抗しようということも問題になる。

また、目的を、単なる速度の向上に限らず、そこから得られる便益の方に焦点を当てるならば、たとえば、IT化でしばしば出される例ではあるが、教育、医療、へのアクセス権の向上のため、とするならば、同時に、ブロードバンドで利用されるサービスとして何を想定するか、そして、ブロードバンドの提供者としてどのような主体を考えるのか、さらに、新規参入がある場合、既存事業者との間の競争条件をどうするのか、というような課題も具体的に浮上してくる提供主体が、民間企業だけでなく、市政府、州政府、ということもありえるだろう。

また、有線だけでなく、無線もブロードバンドの提供主体に加えるならば、現在のワイヤレス(≒携帯電話)市場と、有線系(大手通信会社とケーブル会社)の市場との間の扱い方の調整も必要になる。

ワイヤレスについては、例のGoogle Voiceの一件もあったせいか、本格的に、現状の把握と、必要な政策の絞り込みのために、ワイヤレス市場について大々的な市場調査(市場関係者の力関係も含む)を行うことも決定している。

FCC to Probe Wireless Industry
【Wall Street Journal: August 20, 2009】

興味深いのは、調査対象として「競争の現状」だけでなく「Innovationの程度」をも対象にいれていること。そもそも、どういう視点なり尺度なりで、Innovationについて調べるのか、方法の部分にも興味がある。テーマとしてInnovationが取り上げられるのは、おそらく、新委員長のJulius Genachowskiが、Innovationに照準を合わせていることの反映だと思うが、もしそうなら、適切な競争状況を表すものとして、従来は、当該サービスの利用価格の低下、を尺度にしていたところに、何らかの形で、something new が市場につけ加えられているかどうかをも観察対象にすることになる。この点は、具体的に何をしていくのか、興味深いところだ。

過去30年間の、deregulationが基調の時代のFCCは、ICT産業のインフラ部分の競争条件の整備ならびにその管理と、放送内容などコンテント部分については細かいルールを外して自由化する方向で動いてきた。ブッシュ(子)時代になって、コンテント部分については、むしろ、宗教右派の保守勢力の影響で、番組内容基準が逆に厳しくなり、時に違反金を徴収するような懲罰を行うようにもなった(Super Bowlの時のジャネット・ジャクソン事件など)。そのような地上波放送への監視の厳しさが、逆にケーブルでのより自由な番組作りを促すという副次効果があったものの、いささか反動的に見えたのは否めない。

前任のFCC委員長であるKevin Martinの末期では、彼の独断専行が目立ち、FCC内の官僚の士気も下がっていたようだ。そう考えると、さしあたって、市場関係者を含む、事実の蒐集や、意見の吸い上げを行うことで、組織に活を入れ、再出発を図ることも意図しているのだろう。

ともあれ、ようやく本格稼働し始めたFCCには注目していきたい。アメリカの動きは、良くも悪くも日本に影響を与えてしまうところがあるので。

もっとも、FCCが全てをトップダウンで決められるわけではなく、当然、ホワイトハウスも連邦議会も関わる。また、アメリカの場合、立法措置がもたついているときは、むしろ、法廷の裁判結果が、しばしば暫定的なルールに転じることがある。そういう環境の中でFCCの動きがあるということを踏まえた上で、FCCの動きを解釈していくことになる。