Real-Time Webへの投資熱に見る、起業を通じたITサービス開発スキーム

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August 12, 2009 18:12 jst
author
junichi ikeda

Twitterは、microbloggingを実現しただけでなく、あわせてそのreal-time searchを実現したことが革新的だったと評価される。そして、このreal-time searchについては、それを核にしたreal-time webが、Web 2.0に続く、ベンチャー投資におけるbuzz wordになりつつあるという。

Betting on the Real-Time Web
【BusinessWeek: August 6, 2009】

この記事に連動してReal-time Webとして紹介されているサイト群を見ると、いずれも単機能にピンをたてて、それを起点にしてユーザーの利用意向に応えようとするものがほとんど。これは、起業した後のExitの仕方として、GoogleやMicrosoft/Yahoo!などの、既存メインプレーヤーに買収されることをかなり意識した上でのものと思える。

最近のベンチャー投資の状況によれば、IT系については、初期投資額の少ない、小さなStart-upが増えている。それは、Web-centricが普通になってきたことの反映だと説明されることが多いが、それに加えて、ExitがIPOだけではなく、既存プレーヤーによる買収も当然の選択肢の一つとして予め想定されていることの反映でもあるのだろう。いわば、GoogleやMicrosoftの新サービス開発が、いったん社外で行われた後、買収によって内部化されるようなものだから。GoogleやMicrosoftが提供する「プラットフォーム」に対して、そのパーツとなる部品を提供しているようなものだから。

もちろん、常に買収してもらえる可能性を期待できるくらい、既存プレーヤーの存在が巨大で盤石であればこそはじめて成立するスキームではあるのだが。

つまり、外部に資本家(VC)がいて、さらに、アイデアや特殊技術(パテント)を持つ技術者がいて、その人自身、もしくはその人の知人が起業をする気があり、起業した後には、IPOして自ら既存企業と競うだけでなく、既存企業に買収されるというExitもある。この場合、買収される先は、起業メンバーが所属していた企業である場合もあるし、その競合企業である場合もある。いずれにしても、その技術ならびにその技術が実現した商品・サービスを最も必要とする企業の手に渡るわけだ。

これは、特定の企業ではなく産業にとっての成長を考えた場合、うまいインキュベーション・システムともいえる。特定の企業の置かれたコンディションに左右されずに、技術的可能性、ならびに商品・サービスとしての魅力を追求することができるわけだから。

裏返すと、日本であれば、メーカー内の新事業開発ぐらいの試みも、アメリカの場合は、外部で起業を通じて行うことができる。もしくは、もう少し規模が大きくなると、日本であれば、官主導で設立された共同研究開発機構で、出資企業からの出向研究員が研究しパテントを共有するようなケースでも、アメリカの場合は、起業スキームによって展開されることになる。

もっとも、アメリカでもシリコンバレー以外の土地では、たとえば州政府が中心になってハイテク開発センターを設立してそこでインキュベーションをすることもあるので(バージニアやノースカロライナなど)、全てが起業スキームで行われるわけではないのだけれど。

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Real-time Webについては、このように、サービス開発志向の起業とそれへの投資が続いている。

たとえば、最近では、Facebookがreal-time searchの一つであるFriendFeedを買収している。それくらいFacebookも巨大な存在になった、つまり、プラットフォームになったということの現れともいえる。

ただし、こうしたサービス開発志向の起業は、VCや起業の当事者にとってはいいかもしれないが、その買い手であるメインプレーヤー企業群の抱える問題、つまり、ソフトウェアの販売(Microsoft)や検索広告(Google)に代わる(あるいは次に来る)「新しい収益形態」の模索という課題はそのまま手つかずのまま残ってしまう。

というのも、サービス開発志向の起業はいずれも、ユーザーの使い勝手の向上にはつながるのだろうけど、それは、その使い勝手の良さによって多くの人が集まる、というところまでであって、そこからどうやって収益を上げるかはとりあえず保留になっているように見えるからだ。

とすると、おおもとの巨人である、Google、Microsoft/Yahoo!、Apple、それに、ここにどうやらFacebookも加わるようだが、こうしたプラットフォーム企業がウェブ上で検索広告以外にどういう収益形態を選択し構築するかが、結局のところ、鍵となる。

裏返すと、シリコンバレーの投資熱が再燃したとしても、それだけでは、Web-centric企業の収益形態のInnovationに結びつくわけではないということ。この点は、Web 2.0という投資家向けbuzz wordによって登場したSNSなどのサービス群が、収益性の確立にいまだ取り組んでいる最中であることを思いだしておく方がよい。

Real-Time Web、という言葉が、新たな投資家向けbuzz wordになるのだとすれば、なおのこと。とりわけ、アメリカとは異なって、自社内での新サービス開発が中心の日本企業においては要注意ということになる。

なぜなら、現在のアメリカのIT系の起業は、技術開発、サービス開発のレベルに集中するのみで、どうやら、最終的な収益形態を実現するようなビジネスモデルの開発に照準しているわけではないようだから。