時代錯誤のAntitrust Policy

latest update
August 04, 2009 18:09 jst
author
junichi ikeda

先に記したように、Eric SchmidtがAppleのBoardから退いた。

Google CEO Resigns From Apple Board
【Washington Post: August 3, 2009】

このApple-Googleの話よりも、多分、先日のMicrosoft-Yahoo!の話を受けて書かれたものだとは思うのだが、WSJがAntitrust Lawの再検討の必要性についてOp-Edで指摘している。

The Antitrust Anachronism
【Wall Street Journal: August 3, 2009】

前のエントリーでも指摘したことだけど、この書き手も、現行の反トラスト法が19世紀末の産業社会勃興期のフレームに沿って作られたものであるから、さすがに、21世紀もすでに10年経とうという時期なのだから、政策の考え方とそれにそった法律と運用手段が必要なのではないか、と懸念を表明している(だから、「反トラストの時代錯誤」)。

少なくとも常にイノベーション競争に晒されるハイテク産業においては、規制の手は常に一歩も二歩も現実に遅れてしまい、イノベーションそのものを減速させるだけの効果しか示さず、それは、イノベーションによってもたらされる消費者便益の実現を、規制当局が阻害するだけ。だから、この書き手は、破壊的イノベーションが続くハイテク産業が反トラスト法に引導を渡すのはいつなのか、とまで問うてしまう。

確かに、そもそも、今のアメリカで「トラスト」が成立するのか、といえばそんなことはなく、企業支配は、資本や経営者やパテント(ライセンス)などのミクロな要素の集積で巧妙に展開される。その「支配の網」にどういう根拠で異を唱え介入するのか、というのは、一筋縄ではいかない。

とはいえ、素朴な市場主義をよしとするGOPがアメリカ政治を牛耳っている分にはよかったのだが、現在は、なにごとにも一言口を挟まずにはいられないデモクラットがホワイトハウスも連邦議会も手中に収めているので、Antitrust Policyについても何らかのアクションは起こさずにはいられない。

そのとき、何を基準に介入するか、というのは、広い意味でいえば、オバマ政権(+連邦議会)と産業界との付き合い方の基本姿勢につながっていく。

というわけで、オバマ大統領の意向が重要になるのだが、彼は、BusinessWeekでインタビューを受けている。

Obama Tells BW He's Not Antibusiness
【BusinessWeek: July 29, 2009】

オバマ政権はAntibusinessだ、という烙印に対して、決してそうではない、と応えている。基本的には、プラグマティックに、ファクトやデータに基づいて検討をしよう、といっている。

だから、確かにAntitrust Policyについては、ここにきて突如といっていいくらい加熱してきた、

Google, Micrsoft, Apple, Yahoo!

などを中心に、ウェブセントリックになったIT産業については、Antitrustのルールをその導入の意図を踏まえて、オーバーホール的な見直しを図る、ということにしてもいい時期。

Eric SchmidtがAppleのBoardを辞めた直接の引き金は、タイミングからいって(FTCや反トラスト局ではなく)FCCからの質問状であったように見られる。i-Phoneに代表されるSmartphoneの市場は、“phone”とあるように、従来の「電話事業に関する規制」の延長線上にある市場と見なされ、Appleに無線網を提供するAT&Tやその競合のVerizonなども市場プレイヤーの一人と見なされる市場だ。

FCCの新委員長のJulius Genachowskiは親IT産業のイノベーション支持派でもあるから、むしろ、FCC周辺でSmartphone市場に関して(その意味では全産業が対象ではなく高度無線電話市場という「局所的な産業」に限定しながら)まずは「競争ルール」を検討し、それを、FTCや反トラスト局の合意もとりながら、IT産業全般に関する「競争ルール」として拡張し、「反トラスト政策」の重要な「準則」としていく、というアプローチが現実的な対応ではないかと思う。

もちろん、FCC、FTC、司法省反トラス局、という異なる機関の調整が必要になるので、オバマ大統領やホワイトハウスによるリードが必要になるが。

そうすると、ネックは、ここでもEric Schmidtになるのかもしれない。

AppleのBoardを退いたように、オバマのブレインとしてのWhite Houseとの近さを一回解消して、当該政策の影響を受ける当事者の一人として、21世紀の今日におけるAntitrust Policyの有り様について所見を述べていく、という方が望ましいように思われる。

もちろん、そうした活動で首尾良く「新たなルール」の目算がついた暁には、遠からず、Schmidtという人は、政府の要職に就くことになるのかもしれない。

Silicon Valleyの経営者というと、もっぱら起業家、技術屋、であって、東海岸との経営者らが最終的に政府の要職に就くことを希望する(アメリカの場合、大使がそうした名誉職に当たる)のに比べて、アメリカ政府との繋がりというのはロビイングとファンドレイジングに関わるところに比較的限定されていたように思うのだが、Eric Schmidtという人はもう一歩踏み込んでSilicon Valleyとアメリカ政府との関係を変えていく人物のようにも思える。不思議な人だ。