昨日のエントリーの翌日にこういう記事を目にすると、なんだかんだいって、従来のディスプレイ型アドは、しばらくは盤石なのかもしれない、とも思ったりする。
Google, Ally to Target TV Spots
【Wall Street Journal: July 28, 2009】
Google TV Ads To Get Help From Visible World With Ad Targeting
【paidContent.org: July 28, 2009】
Visible Worldの開発した、広告微調整エンジンとでもいうのか、おそらくはひな形となる広告があってそれをターゲットの属性に応じて微修正を加えて配信するタイプのソフトウェアを、Googleが利用する。
Google側は、広告枠購買を自動オークションで進めるGoogle TV Adsを提供し、Visible Worldのエンジンと組み合わせることで、“addressable ad”を可能とする(この場合のaddressableというのは、ターゲット属性を細かく指定可能、ぐらいの意味だと思う)。
*
何らかの形で事前に取得した配信先の属性情報を使って、広告表現を微修正する。こういう手法については随分前から検討されている。要するに、セグメンテーションの自動化、ということ。
上の記事の説明によれば、デモグラフィック(エスニック、性、年齢、学歴、収入など)や家族構成についての情報でセグメントして配信することになるようだ。こうした基本情報でのセグメントが意味を持つのは、とはいえ、アメリカだからではないか、と思うことが多い。
アメリカの場合、エスニックや宗教などの軸で随分明確な区分けのあるセグメントが可能だ。むしろ、これらの軸による集団化が可能だからこそ、たとえば、ケーブルテレビのチャンネルでは、黒人向けやヒスパニック向けのチャンネルが存在し、そのカテゴリーに向けた広告が打たれる。その意味では、「雑誌」と変わらない。
だから、そういう視認性の高い、誰が見ても明白なセグメント向けメディアについて、その接触者を基本デモグラフィックで分節していくことは、ターゲットの明確化という点で有効だろう。
また、アメリカの場合、公にされる表現が、特定の集団にとってはプラスでも、他の集団にとってはマイナスに、ノイズにしかならない表現というのもある。それら潜在的なマイナスポイントを外していくと、かなりコスモポリタンな表現に行き着くこともあるのだが、それは実際にはあまりにも優等生すぎる表現に落ち着いてしまうこともあって、広告的な、いい意味での毒がなくなってしまう(広告表現の毒、という点では、欧州、とりわけロンドンやアムステルダムの方が厳しい感じがする)。
こういうことを考えれば、予め届ける先を特定して、その人たちがノイズと思うような表現は排して、広告を届ける、というのは、無駄な論争回避、という点でも有効かもしれない。
ということで、アメリカの場合、配信先の特定と、配信先にあわせた情報の選択、つまり、“relevance”はコミュニケーション上有効なので、今回のGoogleとVisible Worldのタッグは、確かに相補的な関係なのかもしれない。
そして、テレビ広告ビジネスのルールを、インターネット上のビデオ広告ビジネスのルールにまで持ち上げるには、このGoogle+Visible Worldの方法論の方が、昨日のエントリーのSilvermanのベンチャーが考えているようなビデオそのものの製作方法論の変更よりも、手っ取り早そうではある。
もっともGoogle+Visible Worldの方法論では、CMスキップへの対処はさしあたって無視しているので、その次の段階で、Silvermanのベンチャーによる映像コンテントが必要になる、という、二段階の対応なのかもしれない。
Silvermanのクリエイティブ発想には、どうやらロンドンのテレビ/広告ビジネスのアメリカ化、という動きがあるように見えるので、広告表現的にも、一段大人な、毒とか皮肉とかにも寛容な表現が増えていくのかもしれない。それはそれでおもしろい。
*
とはいえ、このVisible Worldに、Viacom、Time Warner、それにWPPも出資しているとなると、もう少しばかり、大人の事情もあるのかもしれない、と勘ぐってみたくなる。
GoogleはカンヌでWPPらにディスプレイアドでの協業を提案していた。
Internet Companies and Ad Agencies Go From Old Enemies to New Friends
【New York Times: July 3, 2009】
Visible Worldとのタッグも、だから、WPPらとの関係構築の第一歩(のひとつ)ということなのかもしれない。
だとすれば、技術的には更なる改良が進められる可能性は大、ということだろう。