マイケル・ジャクソンが亡くなり、アメリカのメディアは大わらわ。
Michael Jackson's life was infused with fantasy and tragedy
【Los Angeles Times: June 25, 2009】
Michael Jackson, Pop Icon, Is Dead at 50
【New York Times: June 25, 2009】
Object of Acclaim, Curiosity, The 'King of Pop' Dies in L.A.
【Washington Post: June 25, 2009】
“King of Pop”=ポップの王様、とあるように、アメリカの一時代の文化を明確に象った人物の死であるだけに、これからも夥しい数の「語り」がアメリカ中で生産されることだろう。
マイケル・ジャクソンについては、彼のエキセントリックなキャラクターから、音楽だけでなくさまざまな視点から、今後、アメリカの文化史の中に位置づけられていくのだろう。
とはいえ、やはり、マイケル・ジャクソンといえば、“Thriller”であり“Beat It”であり、“We are the World”。マドンナとともに、ビデオクリップという音楽と映像のハイブリッドな新表現様式を確立し、MTVを文化的なアイコンにまで持ち上げた立役者。
だから、YouTubeやMADのような、世界中で流通する今日の「動画文化」の、主要な源泉の一つといえる。マイケル・ジャクソン(とマドンナ)が、ビデオクリップというジャンルの共通イメージと、そのプロトコルを定めたからこそ、それへの追随・抵抗を通じて、豊饒な動画文化を生み出すことができた。
そして、良くも悪くも、自らをスキャンダルの中心にある存在にすることで、彼をネタにする夥しい「語り」を生み出す装置になった。そうした彼の存在が「セレブ」という文化アイコンの確立にもつながった。その意味でも、今日の世界中のウェブ文化の土壌を創った人物ともいえる。
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アメリカの多チャンネルケーブルは、80年代に成長路線に乗り、90年代初頭までに、全米の8割をカバーするようになった。ほぼ同じ時期に普及したVTRとあわせて、ビデオ=動画、の露出面積を段違いに増やし、それだけ、アメリカの文化の幅を広げた。
マイケル・ジャクソンやマドンナが開いたビデオクリップとともに成長したMTV、マイケル・ジョーダンを擁するNBAとタッグを組むことでブランドを確立したESPN、24時間ノンストップ報道のCNN。こうした、ケーブル多チャンネルの個々の「エッジの立った」コンテントやアイコンが、90年代のアメリカ文化の中心的イメージだった。
そして、こうしたケーブルチャンネルの文化アイコンがなければ、日本の90年代文化もずいぶん異なっていたであろうことは想像に難くない。MTVのビデオクリップ文化があればこそ歌謡曲からJ-POPへのイメージ転換が図られたわけだし、マイケル・ジョーダン(とNIKE)がいなければきっと『スラムダンク』も生まれていなかっただろうし。
だから、マイケル・ジャクソンの死は、おそらく、そうした80年代から90年代にかけての文化的アイコンの消失として語られることになるだろうし、それは同時に、改めて90年前後の(アメリカの)文化状況を総括し歴史化する作業になるのだと思う。