チームオバマのコミュニケーションズ戦略

latest update
June 05, 2009 15:46 jst
author
junichi ikeda

Vanity FairにMichel Wolffが寄稿した次の記事は、興味深い。

The Power and the Story
【Vanity Fair: July 2009】

Wolff自身の取材経験と、オバマ政権ならびに今の「プレス(ここではWolffの使い方に従っておく。Press=Established Mediaぐらいの捉え方でいいと思う)」の置かれている状況を加味した上で、Obama’s White Houseの、コミュニケーションズの方法について分析している。

で、Wolffのこの記事は、ちょうど、WPの次のコラムで示された「なぜメディアはオバマを熱愛するのか?」という疑問の、一つの回答になっている。

The Obama Infatuation
【Washington Post: June 1, 2009】

Wolffの指摘の要点は:

●Press SecretaryであるRobert Gibbsが、歴代のPress Secretary の誰よりも、オバマとの関係が近い。

Press Secretary は、日頃プレスと接触する頻度が高いため、「知らないことは間違っても話せない、口にできない」という理由で、大統領ならびにその側近とは距離が置かれるのが常だった。その結果、Press Secretaryよりも記者の方が、政権全般に関する情報を持っていることが多く、その分、Press Secretaryが劣勢に立たされることが多かったのだが、Gibbsの場合は違う。オバマと近い=制作スタッフとも近いため、記者たちに対して気後れすることもない。その分、安定している。

●ウェブを通じて、有権者、支持者に対して直接情報を提供し、意見を聞くチャネルを築いている。

チームオバマは、大統領選のキャンペーンの頃からインターネットを通じて支持者を組織化した結果、伝えるべき相手に対しては、従来のプレスを通じずとも直接的にやりとりすることができる。ホワイトハウスは、独自の情報チャンネルを築いている。

とりわけ、大統領選が終わって就任までの間の、チームオバマのインターネットによるコミュニケーションがプレスには効いたようだ。今までは、次期大統領が決まったとはいえ、大統領就任までの間は、現職の大統領があくまでも大統領なので当然プレスもそこに重点を置かないわけにはいかないのだが、オバマたちの場合は、リーマンショックによる景気後退という差し迫った課題が現実的にあったため、「実権はまだないけれど、コミュニケーションによるアナウンスだけでも行う」ことを選択して、当時はオバマはまだシカゴにいたわけだが、そこでプレスコンファレンスも行うし、その内容を自分たちのウェブサイトでアメリカ市民に対して発信もしていた。プレスからすると、プレスを経ずとも有権者に対してコミュニケーションできる、という事実をそのとき容認してしまったことになる。

つまり、基本的には、プレスとホワイトハウスの関係が、従来は、プレス主導だったのが、バイパスされる可能性が現実になったため、力関係が逆転して、ホワイトハウス主導になってしまった、ということ。

その上で、

●プレスの経営環境が極めて悪化している現状では、プレス側の動きも、ニュースソースに対して従順な態度を選択しがちになる。

Washington PostもNew York Timesの経営が苦しくなってきている。たとえば、Washington Postの経営を現在実質的に支えているのは、グループ企業で、アメリカの大学や大学院の試験準備予備校であるKaplanからの収入となっている、という。

ただ、こういう中でも、チームオバマはプレスに対して居丈高になることはなく、むしろ、従来通り、プレスに対しては丁重に接している。Wolffによれば、中でもNew York Timesに対しては懐柔策に近いくらい、ラブコールを出していて、結果的に、NYTの記事は、オバマ政権の政策に対して極めて理解のある記事を掲載するようになっているという。

ここで、チームオバマは、プレスとウェブをむしろ使い分けるようにしていて:

●NYTは一般アメリカ市民向けに、オバマ政権の政策について、思慮深く、理性的に、複雑な説明になることも厭わずに、紹介してもらう。つまり、NYTは(NYT自身はリベラルな傾向のある媒体だが)、党派性を脱色した内容が掲載される場所とする。

その一方で、

●オバマの支持者たち、もっといえばデモクラット寄りの、様々な団体に動員をかけるためには、たとえば、HuffintonPostのような媒体で、より直接的な、党派色むき出しの記事を掲載するようにする。(Wolffの表現では、HuffPoは「情報のback door」と位置づけられている)。

実際、現在、abortionやgay-marriageを支持するadvocacy groupsが、HuffPoのようなチャネルを通じて動員されている。

さらに、

●Politicoは、White Houseの噂の出所的扱い
●セレブ雑誌では、オバマファミリーを政治家としては数少ないセレブとして扱う

ようになっているという。

*

補足しておくと、Wolffの記事は、客観的な記述というよりは、彼自身の経験に根ざした、その意味で主観的な書き方がされている。表現の選択も、分析的というよりは文芸的な印象があるので、実際には、もう少しニュアンスのある、解釈のふれは幅のある書き方であることには留意しておいた方がいいと思う。

その上で、Wolffの主張をまとめると、インターネットの登場でプレスはバイパスされるようになった。景気後退による経営不振もあって、プレス自体、ホワイトハウスに対して強く当たれなくなっている。その力関係の変化をうまく活用して、チームオバマはプレス対策を展開している、ということ。

全てを鵜呑みにすることはないが、いろいろと補助線を与えてくれるように思う。