Permanent Campaignの一環としてのGM救済

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June 02, 2009 17:04 jst
author
junichi ikeda

GMが破産法の適用を申請した。

アメリカのジャーナリズムはGMの報道に勤しみ、その結果、GMに関する夥しい数の言説が生産される事態に及んでいる。

ざっと挙げるだけでも、破産法適用に到った背景、30年間手つかずにいた企業再生、労組の問題、ミシガン州の問題、など、破綻劇の原因を追及しようとする報道。あるいは、今後、行われる破産法手続きに関する報道。GMならびにGM関連企業に勤める人々の今後についての報道、さらには、GM(とアメリカ製造業の)栄光を回顧するもの、など、多岐にわたる。

ここでは、しかし、オバマ政権のコミュニケーション戦略の事例の一つとして捉えてみたい。

GMの破産法適用の動きを受けて、オバマ大統領は次のように、破産法適用後の「新しいGM」について、会見を行っている。

Obama Is Upbeat for G.M.’s Future
【New York Times: June 1, 2009】

破産法適用の結果、アメリカ連邦政府が、新GMの株を60%所有する事態を受けての、政府の基本姿勢を示している。

注目すべきは、上の記事で掲載されている、この会見の様子を示した写真。

オバマ大統領の周辺に、ホワイトハウススタッフ、キャビネットメンバーの主立った面々が同席している。オバマ政権が、GM救済に当たって、一丸となって当たることを強くアピールしている。報道によれば、先週末、破産法適用に到るかどうかの瀬戸際の際、彼ら主要スタッフをミシガン州に送っていたと伝えられる。

おそらくは、破産法適用の判断のギリギリのところで、オバマ政権の今後の関わり方について、水面下の交渉、やりとりを関係者との間で行っていたと思われる。なかでも、新GMの株を17%所有するUAW(自動車産業の企業横断的な労働組合)との交渉は相当タフであったと思われる。

組織率は下がったとはいえ、労働組合はデモクラット支持の大票田で、彼らを無視することはデモクラットには難しい。そのため、保守系のメディア(たとえばWSJ)からは、今回のUAWの株所有については、UAWに対して温情が過ぎるという批判も出ているくらい。

いずれにしても、オバマ政権からすると、GMの救済には都合500億ドル(1ドル100円として5兆円規模)をつぎ込むことになり、GMの再生は、オバマ政権の今後、もっといえば、2012年の大統領選で再選されるかどうかに大きな影響を与える。その意味で、大きな賭になる。

オバマ大統領は、この週末、NBCのNightly News に出演し、GMの重要性を訴えていた。何の意図もなく大統領がテレビに出演することなどないことを考えれば、土壇場でのGM関係者の意思統一のために政府の意思を示すことが必要だという判断があったからだろう。

このほか、コミュニケーション戦略として考えているなと感じたのは、6月1日の段階でクライスラーの復活の目処が伝えられることで、GMの再生についても一定の現実味を与えることになったこと。また、連邦議会が再開される直前にオバマ政権からGM再建について発表したことも、連邦議会議員から余計な発言をされない点で上手かったと思う(もっとも、連邦議員の方も、できればこのGM救済については明言を避けたかったところだろうが)。

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このGMに対する賭は、オバマ政権の政策の目玉として同時並行的に進めている、地球環境保護政策やヘルスケア政策とも大きく絡んでくる。

CO2削減や、石油への依存を減らすには、自動車そのものをかえていかなければいけないが、そのためにデトロイトの自動車三社の協力は不可欠になる。

そして、既に、この「新しいクリーンなクルマ作り」については、今回のGMに先立ち、業界関係者でのコンセンサスを示している。

As Political Winds Shift, Detroit Charts New Course
【New York Times: May 19, 2009】

ここでも、関係者が一堂に会した形での会見が行われている。このとき、オバマは全米統一基準を導入することにより「アメリカ自動車産業の将来の不確実性」を取り除くことができ、それが、自動車産業の早期回復にプラスに働く、という主旨のことを発言している。

ヘルスケア政策については、これももしも全米で一律の制度が導入されれば、たとえば、デトロイト3と外国自動車メーカー(トヨタ、ホンダ、等)の間での、労働者に対する様々な保障に関わるところでのコスト差を埋めることができ、その分、外国メーカーとの競争に耐える体力を持つことができるといわれている。

もちろん、GMを救済しUAWも救済するためにヘルスケア制度を導入するとなれば、本末転倒となるが、しかし、デモクラットにとっての悲願であるヘルスケア制度を導入するにはよい機会でもある。

なぜなら、GMの再生は、今回アメリカ連邦政府が投下した500億ドルをきちんと回収できるほどの利益を出すところまで達しない限り、決して成功したとはいえないからだ。つまり、GMの再生は、オバマ政権の浮沈に関わることになる。そして、オバマ政権の浮沈は、多分に、連邦議会議員(上院、下院)の選挙にも影響する。そうすると、来年の中間選挙までには一定の成果が出ていて欲しいところ。

オバマ政権の計画では、政府が保有したGM株を1年半後ぐらいを目処に外部への売却を始め、5年後ぐらいまでには売却を完了したいという。つまり、2012年の大統領選の前には、今回のGM救済という判断が間違っていなかったことを示し、その後始末も第二期オバマ政権の間に完成させたい、という意思表明ともとれる。

このように、アメリカの場合、選挙は必ず二年に一回やってくる。この「予測可能な時間の区切り」が、アメリカの政治日程を一般の人々も含めて見通しのよいものにしている。

ということで、今回のGMの件は、オバマ政権にとっては大きな賭だが、しかし、その賭のためには、コミュニケーション上の様々な仕込みをしていたことになる。Permanent Campaignのいい例といえるだろう。