ものは言い様-の職人、Frank Luntz

latest update
May 26, 2009 11:15 jst
author
junichi ikeda

New York Magazineが、Frank Luntzに簡単なインタビューをしている。

The Wordsmith
【New York Magazine: May 21, 2009】

Luntzは、1994年の中間選挙でNewt Gingrichのスタッフとして働き、キャンペーン・スローガンである「Contract of America(アメリカの契約)」を考案し、GOPを下院の多数派に返り咲かせた。もともとは、Pollster(世論調査者)であったが、アメリカの政治がPermanent Campaign化していく中、Pollsterが政治家のスタッフとして重要視される時代のさきがけとなった人物ともいわれる。

Permanent Campaignというのは、選挙で勝利した後も、次の選挙で首尾よく勝利をおさめるために、選挙後の活動(大統領であれば政策、連邦議員であれば法案)について、日々世論調査結果を気にしながら、米国市民=有権者の支持を最大化できるように活動すること。選挙活動であるCampaignが永久に続くことからPermanent Campaignとつけられた。

この結果、政治家のスタッフ機能として、Communications が重要な位置を占めることになる。世論結果の実施だけでなく、その結果を分析し、適切なコミュニケーション方法を考案していく。その活動は、単にロジスティックスとしてのコミュニケーションツール(プレスリリースやプレスコンファレンスなど)の準備にとどまらず、ある政策における主要ポイント(しばしばキーワードとなる)の選定から、時に政策そのものの核心内容の決定にまで及ぶようになる。

Luntzはそうした時代に、Pollsterの経験を生かして、communications staffの中核にまで上り詰めた人物。とりわけ、政治家が利用する言葉の選択について、極めて意識的で、選挙当日にわざわざ選挙会場にまで足を運び、投票をしてもらうには、「有権者が聞きたい言葉」「有権者がわかる言葉」を使わなければ意味がない、といって憚らない。

上のインタビュー記事のキッカケになったのも、今、アメリカでデモクラット主導の政府で検討されているHealthcare Reform(医療保険制度の改革)について、LuntzがGOPの議会関係者がどのような言葉で語るべきか指南するメモを発表したため。たとえば、そのメモでは、Healthcare Reformの中身には触れず、こうした動き自体を、そもそもデモクラットによる“Washinton Takeover”、つまり「デモクラットによるワシントンDC=連邦政府の乗っ取り」と名づけることで、GOP支持者やindependent voters(選挙登録の際、デモクラットにもGOPにも支持を表明していない人)にまず関心をもってもらう(それも、アンチ・デモクラットのニュアンス付きで)ことを目的にしていたりする。

ここで補足しておくと、インタビュアーであるNYTは、一般的にはデモクラット支持のメディアと認識されていて、GOPからすると基本的には「敵」という位置づけ。NYTからすると、Luntzのような、半ば露悪的な「言葉の操り人」は、キャッチーなコピーさえあればいいのさと嘯くダメな広告クリエィティブ同様、常に批判の対象になる。そのため、記事中のインタビュアーの質問がそもそもかなり挑戦的であるというニュアンスであり、その攻撃に対して、文字通りLuntzがのらりくらりと「言葉巧み」にかわしている。これは、この記事そのものの、パフォーマティブな面白さでもある。

最後に。
記事のタイトルである“Wordsmith”というのは、明らかに“Blacksmith(=鍛冶職人)”のもじり。言葉を、あたかも鍛冶職人のように、叩いては整形を加えて所期の造形へと変えていく。言葉の職人、という意味。で、それは、当然、Spin-doctorのように、言葉を操る人物、というニュアンスを帯びる。NYTのLuntzに対する姿勢が感得できるようなWord choice。

いずれにせよ、彼らの間には、諧謔の精神、修辞の精神が息づいている。