オバマ政権、反トラスト法適用の厳格化方針を公表

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May 12, 2009 18:26 jst
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junichi ikeda

オバマ政権では、公正競争の確保のために、反トラスト法(日本の独禁法に相当、といっても、日本の方がアメリカの法律を参考にして立法化したのだが)の運用を厳格に行う方針を明らかにした、という。

Obama Takes Tougher Antitrust Line
【New York Times: May 11, 2009 】

司法省の反トラスト局のトップである、Christine A. Varney女史が、デモクラット系のシンクタンクであるCenter for American Progressの講演の場で明らかにした、とのこと。

Predatory behavior(略奪的行為)、たとえば、競争業者をマーケットから閉め出すために不当なまでに安価な価格で商品・サービスを提供し、資金力のない新参企業を当該市場から締めだす「略奪的価格設定」のような行為にも、厳格に対処していく、という。

あからさまな談合や価格協定のようなものと異なり、こうした「略奪的行為」は立件が難しいため、そもそも立件するか否かの段階で、当局のトップの政治的傾向(つまりは、大統領の所属政党がデモクラットかGOPか)に依存する傾向がある。略奪的価格設定が、本当に略奪的行為(競争事業者の締め出し)を企図したものかどうかは、日々競争に晒されている企業を外部から見ただけではなかなか判断がつきにくいこともあり、親・ビジネスのGOPはよほどのことがない限り取り上げない。ブッシュ政権もそうだったというニュアンスで上での記事も書かれている。だいたい、アメリカの場合、訴訟自体が企業の競争戦略の一環でもあるから、訴訟を起こすことで、相手企業の動きを封じる、あるいは遅らせるということもありえる。だから、GOPの判断も全く故なきこととはいえない。企業間競争を遅らせる訴訟を起こすよりも、実際に市場を通じて競争させた方が、反トラス法の趣旨(消費者便益を上げる)にも叶う、という風に考えられなくもないからだ。

記事によれば、ブッシュ政権時代は、アメリカの反トラス法の適用が厳格でなかったため、多国籍企業の一部は、むしろEUでの訴訟に訴えることが多かった、という。こうした動きに対して、オバマ政権下での反トラス政策(というか競争政策)は、おそらくは現在のポピュリズム的傾向という追い風を加味して、EU並の厳格な適用をめざそうということのようだ。

Varney 女史はクリントン政権下で、もうひとつの反トラスト政策の実施機関であるFTC(Federal Trade Commission)で委員を務めた経験があり、そのときの人脈も今回の反トラスト局の活動に生かされているという。

(なお、FTCは、司法省反トラスト局とほぼ同じように市場の競争状況を管理するが、FTCは不正競争防止法のような、より消費者保護に近い活動まで行う。また、FTCは独立行政委員会の一つ(他には、たとえば、FCC=連邦通信委員会やSEC=証券取引委員会など)であるため、ホワイトハウスよりも連邦議会の担当委員会の影響が強い。)

最後に。
Varney女史が講演を行った、Center for American Progressは、クリントン政権のメンバーが作った、デモクラット寄りの党派色の強いシンクタンクで、オバマ政権には人材を供給している。シンクタンクは、もともとは党派色の薄い、中立的な存在として設立されていたのだが、GOP系のヘリテッジ財団のように、保守色の強いシンクタンクが登場する中で、対抗上、デモクラットが作ったもの。中立性をうたっているものの、GOP、それも南部の人間からすると、明らかに東部のリベラルに偏向しているように見えるテレビ(三大ネットワーク)や新聞(NYTなど)に対して、Foxのような保守色の強いニュースチャンネルが登場したのと同じような動き。

つまり、80年代のGOPの登場以降、アメリカでは中立的な言説の立場がなかなか取りにくい状況ができてしまった。オバマが、2004年のボストンDNCでの伝説的なスピーチで、「ブルースステイツ(デモクラット支持州)」も「レッドステイツ(GOP支持州)」もなくあるのは「United States of America」があるだけだ、といったのはこういう状況を踏まえたものだった(もっとも、「言うは安く行うは難し」というのが実情のようだが)。