今週に入って三度目のプレス・カンファレンスで、オバマ次期大統領は、今後のアメリカ経済の「向かうべき道」を検討するセクションとして、ホワイトハウス内に新たにEconomic RECOVERY Advisory Board(ERAB)を設置し、その議長にPaul Volcker元FRB議長を、また、そのシニアメンバーにAustan Goolsbeeシカゴ大学教授を指名することを発表した。
Volckerはグリーンスパンの前のFRB議長。任期は、1979年から87年までだったので、プラザ合意やレーガノミクスの最中に金融の舵取りをした人物。高金利政策(短期金利で20%)を推し進め、結果的に市中の資金を投信など有価証券市場に回し、アメリカの金融の仕組みそのものを大きく変えた(その結果、株式市場や債券市場に資金が周り、当時のバイアウト→業界再編、という流れをも、おそらく後押ししたと思われる)。
Goolsbeeは、彼の発表した論文などを見る限りにおいては、シカゴ学派の流れに当たる、市場の情報を通じた「賢い市場管理」を得意とする人物のようだ。対象としては、インターネットに関するものも多い。
想像するに、Volckerは、今後のドル政策をどうするか、そのための金融政策や国際協調のスキームを考案することに注力し、Goolsbeeは、今後のアメリカ政府の「Re-regulation」のバックボーンとなる部分を考案していくのだろう。そこでは、政府、市場、企業、消費者、など、各アクターの間での「情報のやりとり」を核にした規制のあり方を考案していくことになるのだろう。当然、ツールとしては、インターネットやブロードバンドの広汎な利用を想定することになると思う。
それにしても、この三日間のプレス・カンファレンスは、よく計画されている。いってみれば、アメリカ経済の「ターンアラウンド」について、どう取り組むか、その道筋が見通せるような順番で、市場の反応を見るために一つずつゆっくりと確認するように、発表を行っている。その効果からだろうが、連日、ダウ平均は上昇を記録している。
ざっとふりかえってみても、
初日(月曜)
ブッシュ政権からの業務引継とオバマ政権の即時発進を担う実務家を指名。
Geithner 財務省長官 (日本の財務大臣相当)
Summers NECの議長 (ホワイトハウス内の経済諮問会議の議長)
二日目(火曜)
足下の財政出動によるアメリカ財政の悪化の懸念に対して、
大きな政府ではなく「賢い政府(Smart Government)」を目指すことをゴールとし、
徹底的に政府予算の見直しを図ると公言し、そのために政府財務スタッフを指名。
Orszag OMBディレクター (OMBはホワイトハウス内にあって国家予算を実質的に取り仕切る)
つまり、足下の経済混乱において、
一次被害(景気後退そのもの)への対処、と、
二次被害(景気の取り扱いによる波及的被害=財政悪化)の防衛、
というように、さしあたって、「止血」をどうしていくか、への道筋を示したわけで、
その上で、
三日目(水曜)
近未来の経済政策の方向を指し示すチームの核となる人物を指名。
Volker ERABの議長
Goolsbee ERAB中核メンバー (NECのメンバーでもある)
というように、救済後のアメリカがどのような経済方向に向かうのか、指し示したことになる。
ERABのメンバーについては、来週以降追って発表する、というが、おそらく、この間、アメリカのマスメディアでは、想定されるメンバーについての観測記事や、その人物が指名されることによる(市場や政策に対する)影響について、いろいろと取り沙汰されるだろう。たとえば、バフェットやソロスの名前も挙がると思われる。あるいは、ステイグリッツや、クルーグマンについても。
こうした情報の提供自体が、視聴者に対して、一種の情報公開になっているのは、今日的な、つまり、インターネット(というかブロードバンド)が普及したグローバル化(全球化)時代の、メディア・コミュニケーションとして、きわめて興味深いところ。
オバマは次期大統領という点では、アメリカ政府の舵取りについては、いまだその正統性をもってはいないのであるが、むしろ、それを逆手にとって、勝手連的に、ネット上でのビデオコミュニケーションによって、逐次、彼の政策の方向性を示している。「逆手にとって」というのは、彼はいま、まだ何も権限を持っていないので、彼がやれることは「コミュニケーション」だけ、つまり「期待醸成」だけだ。しかし、その「期待醸成」だけで、株価は上がる。何もできないが、コミュニケーションだけはできる、そして、そのコミュニケーションを通じて、市場関係者や国民をインボルブ(巻き込む)していく。アメリカは、サンクス・ギビング以降は、ハッピーホリデーといって、年間最大の商戦を迎える。おそらくは、このタイミングで可能な限り、消費減退を阻止したい、という考えもあって、これだけ、コミュニケーションをしているのだろう。
オバマは、選挙キャンペーンにおいて、インターネットを活用したコミュニケーション方法で注目を集めた。そして、今度は、この移行期のコミュニケーションによっても多いに注目を集めている。大事なことは、むしろ、政治において、とりわけ有事の政治においては、パニックを回避するために、トップのコミュニケーションが極めて重要な役割を果たすことを、実際に示していることだ。実際、9月、10月の信用危機への対応に当たっては、欧州、特にイギリスの即断が称賛され、一時、EUの方がアメリカよりもビジビリティがあがっていたのが、11月にはいって、オバマが大統領に選出されて以降、すっかり逆転している。
明日以降、次週以降も、彼のこの、「コミュニケーション戦略」には注目していきたい。個人的には、同時代的に、かなり興味深い、歴史的動きに立ち会っている、という高揚感が絶えない(この高揚感こそがまさにチーム・オバマの狙うところのものだとはわかってはいるのだが)。
いま、アメリカの動きは本当におもしろい。