久しぶりにベタにマーケティング関連で。
GoogleとP&Gが、お互いの社員(two-dozensというから24人)を数週間、それぞれの研修プログラムに参加させる、という話(記事はこれ)。そうして、P&Gはonline marketingについて、Googleはbrand marketingについてそれぞれ学ぶというようだ。さらに、互いにwin-winな状況としては、P&Gはonline利用者へのアピールの仕方、Googleは端的にYouTubeへのテレビ広告予算の誘導を考えているとのこと。
互いに学ぶ内容は普通に納得がいくものなので、特段に驚くこともないと思う。むしろ、注目すべきは、「今」これを行う、タイミングの方だろう(このプログラム自体は1年前から検討が開始されていたので)。
金融危機、景気後退、という「今」
自動車産業の救済が検討されている「今」
ジェリー・ヤン(Yahoo CEO)がstep-outすることになった「今」
エリック・シュミット(Google CEO)がオバマ政権新設のCTOの候補である「今」
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全てを同一の目線で見るのはさすがにご都合主義に過ぎるけど、とはいえ、この符号具合は気になるところ。
マーケティング活動全般にとって一番大きいのは、自動車産業の低迷との兼ね合いだろう。自動車産業はどこの国でも巨大な広告予算をもった産業。それが、アメリカの場合、今、連邦政府に救済されるかされないかに関わらず、リストラのプロセスに入らざるを得ない状況にある。デモクラット主導の救済策が選択された場合、政府予算をつぎ込む以上、その利用内容については政府への報告義務が生じる。一方、GOPが主張する「いったん破産させよ」という方向なら、管財人による資産管理と、その下でのターンアラウンドが実施されることになる(たとえば、GOPの大統領候補に名乗りをあげていたミット・ロムニーは、この破産させて経営陣を一新せよ、と強く主張している)。いずれにしても、自動車産業外部の第三者の目に自動車大手三社の経営内容がつまびらかにされることになり、コスト全般や取引慣行についても、メスが入れられる可能性が高い。広告費も当然、その対象の一つだろう。
そうした状況下で、アメリカの広告主最大手の筆頭であるP&Gが、オンラインを通じたマーケティングを展開するわけだ。
急いでつけ加えると、ここでいうーケティングとは、アメリカの通常使われている、原義通りの「市場をつくる行為」全般のことをいう。日本のように、「消費者調査をする」とか「キャッチーな広告表現の下で広告キャンペーンをする」などの意味ではない。いずれも、アメリカ的な意味では、マーケティング活動の一部でしかない(よく、マーケティングの4Pというが、それでいえば、日本のマーケティングは、事実上、Promotionに限定されてきたと言っていいと思う)。アメリカでは、より上位の売れる仕組み全般をマーケティングという。だから、オンラインマーケティングというのは、オンラインをつかった「売れる仕組み」一般のこと。そのプロセスの中で、マーケティングの4P(product, price, place, promotion)が再構築されていくことになる。だから、これは随分以前から私は言ってきたことだけど、マーケティングは革新性=innovativeであることが必須の条件になる。creative=表現、はその一部に過ぎない。
とまれ、そうした革新にP&Gが、最大のIT企業であるGoogleと組んだ場合、その余波は大きいだろう。もちろん、二者の協力関係はまだ端緒についたばかりで、状況によっては袂を分かつようなこともありえないとはいえない。けれども、日本の花王同様、コスト管理や流通管理にとても厳しいトイレタリー業界の雄であるP&Gがマーケティング予算の組み方の考え方自体をGoogleとともに考えるようになるとしたら、多分、業界の慣習を大きく変えることになると思う。
だから、この動きは、マーケティングが、事実上、企業の営業活動全般と同義になった現在(人文専門用語だと、ポストモダンな現在、後期資本主義の現在、と言い換えてもいいと思う)では、マーケティングプラニングが単なる広告・プロモーション活動は、レイヤーが異なる(一段上のレイヤー)ところで検討される必要があることを要求するだろう。
そして、そのレイヤーでは、必然的に検討レンジが中期(から長期)となるため、将来を見通すために、イノベイティブであることが要求されるし、同時に将来を見通すビジョナリーであることが要求されるし、それらを統合して、市場にメッセージとして働きかける=advocateしていくことが必要になるだろう。
マーケティング業界に必要とされるスキルセットは数年で大きく変わるのではないか。GoogleとP&Gの動きは、そういう潮目を示唆するような動きだと思う。