熱狂から覚めて

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November 06, 2008 12:11 jst
author
junichi ikeda

アメリカ大統領選から一晩明けた。
アメリカでの報道のされ方も、だいぶ熱から覚めたようで、随分とバラエティに富んできている。

その前に、投票率の事実がわかったので、記しておくと:
投票率が62%
オバマの得票率が52%
だから、おおまかにいって、アメリカ人の3分の1が彼を支持した、ということになる。裏返すと、選挙で勝つ、マジョリティをとる、と言っても、実際には、3分の1ということ。そして、これは、最終対決が事実上の二択だから選べきれること。しかも、選挙人の勝者総取りシステムだから、結果的に地滑り的大勝=landslide victoryといえること、また、それが歴史として事実として残されること。このあたり、民主制は正統性の確保が大変なことを改めて実感させられる。

(ちなみに、三択以上になると、実は、多数派を代表する人を選択することは原理上不可能になる。いわゆるアローの定理というもの。アメリカ大統領選の場合は、だから、各々の政党における予備選=予選、が実は大きな意味を持っている)。

最終的には二択からの選択なので、必然的に舵取りの向きが変わりやすいのだが、このあたり、市井の書き手(といってももはやベストセラー作家ですが)である内田樹先生がブログで、「本音」のブッシュから「建前」のオバマへ、ということを書かれている。多分、政治思想などの専門家からみたらわかりやすすぎる説明だろうが、でも、そういうことなのだろう。

(人間の善悪のように、単純に二分できるのか、というのが一番基本的な疑問だと思うけど、レヴィナスやフランス現代思想に通暁されている内田先生にもの申すのもね。門外漢が全くのドタ勘でかくと、ユダヤ的、タルムード的な、二つの間を無限に振幅していきさえすればいい、終わりがなければよい、ということか。いや、やっぱりよくわからないか)。

という具合に、アメリカのメディアでも、選挙の翌日から、夢から現実になったオバマ次期大統領をめぐって、いろいろと、ある意味では全く異なる利害で書き始めている。このあたりの、散り散り具合が、逆に、歴史的瞬間=defining momentに向かっているとき、および、その頂点においては、そういった違いを越えた興奮感の中で一体感を得ることができることを逆説的に表している。革命的瞬間、というのはこういうものなのかもしれない。もっとも、翌日から普通の日がきちんと始まることを考えると、実に上手く「殺菌された革命」が行われたとも言えるのだろう。

一日経っての取り上げられ方は、たとえば、

経済誌系のメディアは思い切り世俗的に、足下の景気後退をどうするか、という話に集中、もっぱらオバマによるホワイトハウスならびに大統領府におけるトップ人事に関心が集まっている。

政治系、というか一般紙は、黒人発の大統領、ということで、公民権運動との連関で、今回の選挙を「歴史的に意義づけよう」としている。

一般紙は、一般にリベラル系=デモクラット支持系が多いのだが、保守系と呼ばれる側は、上の投票率や投票者の分布をあれこれ分析しながら、本当に「アメリカはユナイトされたのか」という点に疑問を出し始めていて、もう牽制を始めている。

一般の人の声を集めやすいラジオなどでは、リスナーの声を拾うことにさしあたって専念しているように思えるが、その中では、素朴に「今ほどアメリカ人であることを誇りに思うことはない」などとしゃべるリスナーが結構いる(その一人で広告関係者がいたのには、おいおい、当事者が、そんなに熱狂してどうするのよ?と突っ込みたかったが、広告関係者の方がむしろ、盲目的にメディアとべったりの関係になるのは、あまり日米でも変わらないらしい。これは余談だけれども)。

かように、既にオバマをめぐる言説は様々にばらけている。好きも嫌いも、尊敬も侮蔑も、トーンにバリエーションがある。つまり、愛憎はあれど、無視されることはないほど、キャラが立っている。こういうところは、実は、ブッシュ・ジュニアとも相通じるところがあるように思う。

それに比べて、メディアでもgracious concession speech をしたと称えてられているマッケインは、確かに、あのスピーチをきく限りは、本当に、国を憂ういい人、誠実な人なのだろう(だから、彼はしばしば、GOPの中でもリベラルと言われてしまっていたわけだが)。きっと、2004年にケリーが負けた時も、こういう感じだったのだろうな、と。微妙なところだが、実直で誠実なだけでは、大物の政治家としてはやっていけない、というのは事実なのだろう。何にせよ、ブッシュ、クリントン、のサイクルからようやく抜け出せたことはよかった。無駄な閉塞感を意識することはなくなったように思う。