米大統領選、終了。

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November 05, 2008 22:57 jst
author
junichi ikeda

今年に入ってからずっと追いかけてきたアメリか大統領選だが、オバマの圧勝で終わった。

MSNBCやCNNで映像を見ていると、オバマにしても、マッケインにしても、ステージに上がって、数万の支持者を前にしてスピーチを行う様には、何か圧倒されるものがある。人々の熱狂ぶりは、たとえば、ウッドストックとかこんな感じだったのかな、とか、人々の力で偉業を成し遂げたという感じは、たとえば、アポロの月面着陸とかこんな感じだったのかな、と思ったりした。いずれも、私の世代でもリアルタイムで見たことはなく(『20世紀少年』はもうちょっと上の年代の話)、映像としては『フォレスト・ガンプ』で見たぐらい。だから、People’s PowerとかLove & Peaceとか言われても今ひとつぴんと来なかったのだけど、多分、今回の選挙戦の映像は歴史的なものとして記憶に残るのだろう。その意味では、ベルリンの壁が崩れた時に近いのかもしれない。何か、歴史が変わるのか、という予感をさせられる、という意味で。

選挙戦そのものは、swing statesといわれたところが本当に最後まで接戦で、たとえば、インディアナやノースカロライナは、100%開票でも各々1万票程度の差しかない。というか、選挙結果自体が、事前の予測とほとんど変わらないので、その予測の精度じたいも驚きだ。裏返すと、複数の集票計算装置が、各地域に配備されていることになる。

もっとも、選挙人獲得数はオバマの圧勝だが、これは、Winner-takes-all方式だからで、popular votesといくと、それほど変わらない(どうやら最終的に、オバマは全米でのpopular votesでも得票率が50%を越えたようで、間接選挙の矛盾からは免れたようだ。ということで、大手を振って、アメリカの多数を取ったといえる)。

大統領候補者は独立系がいるものの実質的にはデモクラットとGOPの二択なので、当たり前だけど、ほぼ同数ぐらいの人々がマッケインを投票したという事実はpopular voteの事実として記録される。だからだと思うが、オバマにしてもマッケインにしても、選挙結果が見えた時点でのスピーチで、各々が、相手の検討を称え、同時に、その支持者に最大の敬意を払っているのが印象的だった。実際、国際信用危機による景気後退というのは、アメリカ全体の問題なので、超党派的な対応も必要だからだ。このあたりは、ジェントルマンシップがにじみ出ていて、素朴にすばらしい。

(オバマのvictory speechを、たとえば、MSNBCで見ると、スピーチの途中で、聴衆の映像が挿入される。日本人は是非ここに注目して欲しい。彼ら、デモクラットたちは、オバマのスピーチの一つ一つに頷き、涙さえ流してしまう。これは典型的なデモクラットの図。オバマのスピーチのスタイルが牧師の説教に似ているところもあって、一種、宗教的な雰囲気さえある。このあたりは、GOPに宗教右派といわれる信心深い人たちがいて、その分、政治の方は現実的に振る舞うのと対照的。デモクラットは、ある意味、政教分離を原理的に受け入れているわけだけど、その分、心のよりどころ自体が、各種活動に向かっているように見えるときがあって、むしろ、世俗化した社会で彼らデモクラットのような理知的な人たちの方が、活動の場面で、むしろ宗教的な情熱を示してしまう、というのは、掘り下げて考えると興味深いのではないかと思うときがある。)

大統領選と同時に行われた、上院選、下院選、州知事選は、いずれもデモクラットが優勢。上院は、どうやらfilibuster-proofの60議席にはあと一歩で届かずという感じだが、それにしても、上院、下院ともに、デモクラットが多数派を占めることになった。これで、大統領府も連邦議会も全てデモクラットが占めることになるので、アメリカの舵取りはやはり大きく変わることだと思う。むしろ、この先は、大統領(オバマ)と下院議長(ナンシー・ペローシ)の間で、具体的な政策や予算配分をめぐって争うのではないか、という指摘もでてきているくらい。ちなみに、上院の議長は副大統領が担うので、ホワイトハウス対コングレス(=連邦議会)では、大統領対下院議長、の対立が目立つことになる。大統領は連邦全体の利益を考える、上院は、各州の代表者として州の利益と連邦の利益のバランスを考える、というのに対して、下院は、個々の選挙区の利益が一番に立つため、よりミクロな世事に反応しやすい。そう言う点でも、ホワイトハウスと下院は、目線の高さの違いから、時に利害が異なることがあるからだ。

ただ、オバマが示していた経済政策、つまり、医療、インフラ整備、代替エネルギー、という分野に重点を置いた政策を実施するには、州を越えた調整、場合によると、各州の個別の産業構造そのものに手をつける必要がある。たとえば、バイオ燃料に注力した場合、たとえば中西部の農業州は、いきなりエネルギー産業へと変わることになる。このように、今までとは異なる「資源」が、各州で見いだされることにもなるだろう。

今回のアメリカ大統領選は、海外からの注目も集めていると報道されてきた。アメリカの一国主義体制を何とかしてもらわないと困る国、アメリカの意向で自分たちの生活が変わる国、経済的に大きく変わる国、などなど、事実としての経済活動のグローバル化と、グローバルメディアとしてのインターネットのおかげで、アメリカ大統領選もグローバルなメディアコンテンツへと変貌した。実際、私もMSNBCで開票中継をライブで見ていた。

(余談だが、そのMSNBCのネット配信の提供スポンサーが、アニマルプラネットという、自然保護、動物保護に傾斜したケーブルネットワークで、今回は、『Whale Wars』という、捕鯨反対番組の番宣だった。その中で、何度も「日本人は南極までやってきた数万頭の鯨を捕獲している(けしからん!)」と言っているのだが、MSNBCを見に来る者は、アメリカ大統領選をわざわざネットで見に来る者は、アメリカ人に限らず、政治的関心が高い人たちと考えると、なんだかんだいって「効く」CMではないかと思った。)

インターネットを通じて、リアルタイムで世界中の人々が潜在的に視聴者になりうることが、今回の大統領選では明らかになったといえるだろう。今回の大統領選では、オバマ陣営は随所でネットの効果的利用による「動員」を図ることでマッケインのキャンペーンを様々な意味で凌駕した。マッケイン側からすると、おそらく想定していたゲームとは異なるゲームをさせられたのだと思う。その意味では、今回は、オバマは圧倒的に有利だった。おそらく次の2012年の選挙からは、今回のオバマ陣営の手法が標準的手法になってくるだろう。つまり、ネットの活用は当たり前になる。とすると、それを通じて、アメリカは、大統領の選出過程を、国外のオーディエンスにも知らしめることで、アメリカ全体としては、またとない広報機会を得ることになる。

そう言った意味では今回の敗者がマッケインだったのは、象徴的だ。彼は、上院の商務委員会で、テレコミュニケーション分野の担当もしていた。FCCの活動には彼は深く関わっており、たとえば、10年前ぐらいの、世界中で衛星放送が事業化された頃に、「通信の自由化の次は、放送の自由化だ」という発言までしていた。

けれども、10年経ったら、もはや放送の自由化も衛星放送も必要なかった。インターネットで映像配信すれば世界中で視聴可能。むしろ、自由に流れてくる他国のコンテンツをどうやって閉め出すか、あるいは、そうしたコンテンツとの接し方をいかにして国民に教え込むか、というあたりが、政府の役割になっていくのだろう。

こうした、メディアの将来を占う点でも、なかなかにスパイスの効いた結果に、今回の大統領選は落ち着いたと思う。

約一年近く追いかけてきたイベントも今日で終わり。
それにしても面白かった。