マッケインとDMCA 続報 (EFFらの嘆願)

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October 22, 2008 12:30 jst
author
junichi ikeda

先日、マッケイン陣営がYouTubeに提起した政治ビデオの問題 - つまり、選挙関連のクリップは、仮にそれがテレビのニュースで使われたもの(=footage)を引用していてもフェアユースの範囲内であるから、四大ネットワークからtake-down notice(TDN)が届いても、機械的に当該ビデオを削除するのはやめてほしい、という問題 – に触れたが、これに対して面白い動きが続報としてCNETで伝えられていた。そして、これは、とてもアメリカらしい動きだ。(CNETの記事は、これ)。

続報として伝えられたのは、市民グループ連合(うーん、こう日本語にするとニュアンスが何か偏る気がする・・・原文では、a coalition of public interest groups=公共益グループの連携、ぐらいかな)、すなわち、EFF、ACLU、Center for Social Media、の三者が共同署名した文書を、CBS他四大ネットワークと、YouTubeに送った、というもの。いずれも、大統領選が佳境に入っているこの時期に、利用者=有権者によるネット上の政治的コミュニケーションを阻害するようなことをするな、というのが主旨。

CBSらに対しては、大統領選が佳境に入っているときに、そもそも、フェアユースの範囲内でのfootageの利用についてまで、TDNを送るな、というもの。先日書いたとおり、DMCAの実際上の運営は、ビデオサイト側がTDNを受領した時点で警告を利用者に送り、その後返答がなければ自動的に削除行為に及ぶ、というもの。実際には、フェアユースの申し出があれば、自動的に削除とはならないのだが、実際の運用上はそうではない。そして、この点が、YouTubeに対して送られた文書の主旨と関わるところ。つまり、フェアユースの範囲内のビデオに対する処置を迅速に行え、というもの。

こうした動きはとてもアメリカらしい。

第一に、当事者以外の、第三者的な団体(この場合は、public interest groupの三者)が、この事態の仲裁に乗り出そうとしていること。

第二に、もっぱらデモクラット寄りと目される三団体が、マッケイン陣営=GOP側の申し入れに対して、それは公益に叶うという点から、支持をする方向に即座に動いたこと。もちろん、オバマ陣営のビデオも同種の扱いを受けているはずだから、二次的にはデモクラットの利益にももちろん叶うわけだが。

このあたり、DMCAの利害が、憲法で明記された表現の自由、という超党派的な利益=公益に関わること、を示している。さらに、アメリカの場合、「表現の自由」の核には「政治的表現の自由」を強く含意していることも、三団体の動きに影響している。

第三に、この問題を通じて、DMCAの抱える難点を具体的に提起している、ということ。これは、大統領選後の実際の法案作業につながるところ。(その意味では、マッケイン陣営が提起したのは、願ったり叶ったりの部分はあると思う)。

実際、文書の中では、四大ネットワークがTDAを出す理由として、直接的なコピーライトの侵害ではなく、四大ネットワークの「報道の中立性」の確保であることを指摘することで、それが杞憂に過ぎないことを第三者が代弁している、という体裁を取っている。

ここはもう少し説明が必要で、アメリカの報道メディアは、大統領選があれば自ら支持候補を表明するので(たとえば、従来徹底的にGOP支持と目されていたシカゴ・トリビューンが今回はオバマの支持を表明したり、ということ)、「報道の中立性」というのは、日本のような「不偏不党」とは異なるものなのだけど、それにしても、自分たちが報道として伝えたものが、特定の支持者達によってリミックスされた形で利用されると、結果的にかなり踏み込んだ「偏り方」に加担したように見える、そうした懸念として「中立性」という言葉がある。

これに対して、三団体は、ネットのコミュニケーションは、そもそも「引用とリミックス」から成り立っているとして、利用者のそうした行為=表現行為、を阻害するのは、大元で彼らの表現の自由を阻害することになる、という議論の建て方で対応している。

おそらく、ここから、次のステップとしてEFFらはもう一歩踏み込んだネット上でのビデオなどの扱い方をしようとしているのだろうと思う。

ちなみに、EFFはいわゆる「オープンソース運動」の中核というか発端のような組織なので本来コピーライトについては極めてラディカルな立場をとっているし、ACLUは母体がユダヤ系ということもあり、公権力による「市民の自由」の阻害であれば何であれ真っ向反対をする団体で、こちらもネットの誕生以来、不当な管理がネットに及ぶことをよしとしない立場をとっている。(Center for Social Mediaについては、上の二団体ほどわかってはいないないので、ここでは言及は割愛しておく)。

EFFもACLUも極めてデモクラット的な団体といえる。そもそも、今回の文書送付事態が、自分たちの従来の主張に叶うものならばマッケイン陣営を短期的には支援するような動きを取ること自体、極めて「原理原則の実現に厳しい、理想主義」的なデモクラットの性格をよく表していると思う。

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先日、グーグル社長のシュミットもオバマ支持を公表していたように、オバマ陣営は、シリコンバレーのIT系とはとても繋がりが深い(予備選の時も、カリフォルニア全体では、オバマはヒラリーに大差をつけられて負けたわけだが、サンフランシスコ周辺のベイエリア地区ではしっかりオバマが多数票をとっていた)。オバマ政権が誕生した場合、net neutralityなど、ネットの政治経済的基盤を確定するような深いレベルの制度や法律について、きっと改めて議論がなされることだろう。そして、filibuster-proof な連邦議会の連携も後推して、政策、予算、法案、がシンクロしながら動いていくことになると思う。

そういう意味では、ネットやIT、メディアの世界については、00年代に主張された原理原則につながる骨太の議論については(たとえば、レッシグやティム・ウーの議論)、改めて見直しておくのが、この先を見通す上で役に立つことだろう。