アメリカ大統領選の動きが佳境に入っている。
今週日曜の老舗政治討論番組『Meet the Press』の中で、がブッシュ・ジュニア大統領の時に国務長官(=Secretary of State:日本の外務大臣に相当)を勤めたコリン・パウエルが、オバマ支持を番組中で表明してから、オバマならびにデモクラットには追い風が吹いている。
パウエルが国務長官を務めたのがブッシュ・ジュニア大統領の時でわかるように、パウエルはGOP支持だったのだが、それが、この状況で変わったのは二重も三重にも大きな影響を与えている。
第一に、ずっと疑問視されていたCommander in Chief(=米軍総指揮官)としての能力をオバマが十分有しているというメッセージになったこと。9月中旬以降、大統領選の主要政策争点は経済運営に移ったが、それでも、イラク派兵を含む外交は二番目に関心を呼んでいる争点であり、この点で従軍経験のあるマッケインが一歩リードと見なされていた。ブッシュ・シニア政権で統合参謀本部議長(=米軍トップ)を勤めたパウエルの支持によって、従軍経験者の票も割れる。また、GOP優位の南部には従軍経験者も多いので、この点でも影響は大きい。
第二に、黒人票がオバマに集約しやすい素地ができあがったこと。パウエルは一時、最も黒人大統領に近い男と言われていた。オバマの場合、黒人といっても、少し微妙なところがあって、本当は、黒人と白人のハーフだし、黒人の父はアメリカ人ではない。そのため、キャンペーン開始初期には、「オバマは十分なほど黒人ではない」という声も上がっていた。もちろん、デモクラットでの指名を得てからはそうした動きも減ったが、選挙は最後まで判らないのはどこでも同じこと。その点で、アフロ・アメリカンとして、たたき上げで国務長官の要職まで勤めた人物=パウエルによるオバマ支持は、黒人票を固めるに十分。
第二に、GOPが割れたこと。パウエルがオバマ支持を表明したのは、GOPがあまりに右に振れすぎている、という認識がある。これは、ブッシュ・ジュニア政権になってからしばしば指摘されていることだが、Religious Right(キリスト教右派。この場合のキリスト教はプロテスタント)の影響が強くなりすぎた、ということ。
この余波は、大統領選だけでなく、同日行われる中間選挙にも影響を与えそうな勢いで、たとえば、上院についてはfilibuster-proofを確保できる、つまり、議事進行妨害をしても意味のない、定数の3分の2をデモクラットが確保しそうな状勢にある。
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つまり、この状勢が続くようなら、11月の選挙で、デモクラットの大統領と、デモクラットが安定多数を占める上院が成立することになる。この余波は大きい。というのも、大統領府(=国務省や財務省など大統領による、政府の執行業務を行うセクション)高官については、アメリカの場合、基本的には政府任命で、これは、大統領(実際はホワイトハウススタッフ)が選出し、上院の承認を得ることが必要になる。したがって、filibuster-proofの上院を得た場合、政府高官要職は、デモクラット系で容易に占めることができる。
こうした政府高官には、司法の頂点である最高裁判事や、FRBのガバナーも含まれる。
アメリカの場合、最高裁は、違憲立法審査権の行使によって、政策や法律の解釈に大きな影響を与える。仮に革新的な法案を通しても、最高裁が違憲とすれば、それは法律としては無効になる。特に、Social valueを巡る、つまり、生活の価値観や信条に関わるような、線引きのしにくい領域については、こうした傾向が強い。したがって、最高裁判事についても、デモクラットの勢力をとりもどすことで(いまはGOP系が多数)、法案の過激さも代わってくることになる。
FRBについては、政府から独立した機関であることは間違いないが、しかし、今回の金融危機に当たっての金融機関救済案が、財務省とFRBのタッグでだされたことを考えれば判るように、有事においては、独立などとは言っておれず、財務省に強制権はないものの、双方歩み寄って有事に備えるのが常となるので、ここでも、デモクラット系かGOP系かは、影響をする。
(さらに加えると、条約締結は、議会の承認が必要になるが、これも大統領府と議会が同一政党で占められた場合、条約承認でもめる機会は減るので、国際的な場面でのアメリカの動きも目立つようになる。)
ということで、今の状勢が続くようなら、2009年1月から、アメリカは極めてデモクラット色の強い政府が誕生することになる。これは、やはり、歴史的な出来事になるのだと思う。
つまり、この四半世紀を支配した、レーガンに始まる政治経済の運営方法にまずピリオドが打たれる。そして、ここのところのアメリカでの報道を見ると、改めて、FDR(フランクリン・ルーズベルト)が行ったニューディールに相当するような、デモクラット的転回が起こることになる。
・・・で、何が言いたいかというと。
来年から世の中、いろいろ変わる、ということ。
もちろん、政策が実際に稼働するまではタイムラグがあるから、普通の人々がその変化を実感できるようになるまでは、4-5年はかかるだろうから、目に見えた変化は、2010年代の前半、ということになることだろうが。