FCC ruling changed phone industry in 1968; it could happen again today
【January 30, 2007: USA Today】
FCC委員長のケビン・マーティンがここのところ発言している、ケーブルならびにワイヤレスについてのアンバンドル(ハード/ソフト分離)について論じたもの。
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アメリカのTelecommunications Lawの教科書には必ず紹介される、Carterphone判決を引き合いにしながら、アンバンドルの正当性とその可能なインパクトについて論じている。
Carterphone判決は1968年の判決で、簡単に言うと、電話線に電話機以外のデバイスをつけて利用することを、(当時独占企業だった)AT&Tは排除できない、とした判決。一般的には、この判決によって、通話サービスと情報処理サービスが分離され、その後の情報ネットワーク時代を用意したと解釈される。
この状況を同じように、ケーブルとワイヤレスにも適用させたいとケビン・マーティンは考えているようだ。
市場主義、競争主義を重視する共和党の路線にそった判断だが、マーティンは前任のパウエルに比べて教条主義的な市場主義者ではなく、消費者利益(つまり、消費者団体系の利益集団)も加味したバランスある裁定を行う人なので、その分、実現性のある話として理解していいと思われる。
現状、アメリカのケーブルテレビは、サービスの申し込みとセットで専用の端末(STB:セットトップボックス)が渡される。ちょうど、昔の日本で電話を申し込むと黒電話が届いたようなもの。
つまり、ソフトとハード、というよりは、サービスとハードがバンドルされているため、たとえば、TiVoをケーブルで使おうとしても接続はできなく、専用のSTBへの搭載を契約しなければならない。その間に、ケーブル会社が自社のSTBにDVRの機能を組む込むことで、TiVoのような新サービスの進捗を阻むことになる。
アンバンドルはこうした状況に風穴を開けようとするもの。たとえば、今述べたTiVoやマイクロソフトのような会社が、互換性のあるSTBを提供することが可能になる。もちろん、ただのSTBをだしても意味がないから、彼らは、より高度、より豊富な機能、たとえば、ネットとの共同利用を展開できるようなインターフェースを伴う機能の提供、などを行ってくることだろう。そうして、FCCとしては、ケーブルの分野に競争を入れ、また、ハードに関する技術系の会社が、テレビとパソコン/ネットの両方で共有化可能な端末を提供していくことを推奨することになる。
そして、同種の状況をワイヤレスの方でも推進することで、たとえば、携帯電話、PDA(日本では見ないけど、アメリカだとパームやブラックベリーがきちんと定着している)、Wi-Max搭載パソコン、あたりで、サービス、端末開発が進むことになる。
そうして、スケーラブルなサービスと端末が、広義の情報ネットワークの間で、市場競争を通じながら開発されていくことになる。
こういう流れが、マーティンの頭の中にあるのだと思う。
もちろん、単純に競争すればいいというのではなく、競争のフィールドを広げることで市場の大きさや可能性を担保し、その結果、イノベーションを惹起しやすい状況をつくり、アメリカの株式市場に世界から資金を集め、その掛け金を元手にしながら実際に消費者利益に叶うサービスを提供させることで、実体経済としてもリアルなものに転じさせる。
そんなシナリオを考えているのだと思う。
あえていえば、国にとっての利益(資本流入、研究開発力の維持・拡大、市場標準の先導力の確保、などなど)と、個々の企業にとっての利益と、消費者の利益との間に、バランスを取る方策。そして、それをできるだけ、政府予算というループを経由せずに、民間のカネの流れで実現させる、という深謀遠慮。このあたりは、絶妙といえば絶妙。
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ちょうど今日本でも、昨年の竹中懇の成果を継承する形で、情報通信法の見直しやそれに伴う情報通信省の新設など、あまり表面にはでないけれども、2010年以降のメディア/コミュニケーション業界の方向を決める作業がなされている最中だ。感覚的には、80年代の終わりから90年代初頭の金融業界に関する議論のような感じで、当時は証券と銀行の垣根をどうするんだ、という話だった。その頃の議論が、数年後の金融ビッグバンを用意していた。そうまとめていいと思う。
とすれば、2008年選出の大統領配下のホワイトハウスと米国議会で取り上げられるのは必至といわれる、96年通信法改正の方向性を、様々な視点から予見しておくことは、日本のメディア・コミュニケーション企業の経営者にとっては重要なことではないかと思っている。金融ビッグバン前後の金融業界の動きから学ぶことも多くあるにちがいない。